研究課題
肺特異的CCL1発現マウスの作成のため、マウス胚細胞へSP-CプロモーターCCL1プラスミドベクターをマイクロインジェクションにより導入し、キメラマウスを作製し、遺伝子改変マウスを選抜することに成功した。遺伝子改変マウスの表現型を感染などの負荷をかけない状態で検討したところ、遺伝子改変マウスの外観や肺組織所見は、野生型マウスと比較して有意な差を認めなかった。血清及び気管支肺胞洗浄液を採取して検討を行ったところ、遺伝子改変マウスにおいては気管支肺胞洗浄液中のCCL1濃度が野生型マウスと比較して有意に高値であることが示された。また気管支肺胞洗浄液中の肺胞マクロファージ表面抗原を解析したところ、F4/80陽性細胞は、遺伝子改変マウスで少なかった。これらの結果から、生体内において肺組織におけるCCL1過剰状態は、肺胞マクロファージの表面抗原の発現に影響を与えている可能性が示唆された。遺伝子改変マウスの感染症に対する免疫反応を検討するため、Tリンパ球などの細胞性免疫が関与していると考えられているBCG(Bacille de Calmette et Guérin)をマウスの気管内に投与し肺内での免疫反応を観察した。BCG気管内投与により肺組織に肉芽が形成されるが、遺伝子改変マウスでは肉芽の形成が有意に増加していた。以前の我々の知見では慢性閉塞性肺疾患(COPD)における急性増悪の予後にCCL1の遺伝子変異が関与していることを疫学的に示している。COPDの急性増悪の原因として気道感染は重要であり、本研究により肺組織におけるCCL1の役割が明らかにされ、COPDにおける気道感染のメカニズムが解明に近づくことが期待される。
2: おおむね順調に進展している
当年度においては、遺伝子改変マウスにおける慢性細菌性気道感染後の病態を検討することが計画されていた。現在までの研究で遺伝子改変マウスに対しBCGを投与することで肺内における肉芽の形成を観察し、対照群との比較検討を行ったところ、肉芽の形成に差が認められることが明らかとなっていることから、BCGに対する細胞性免疫がCCL1の肺内での過剰発現により変化していることを示唆する結果となった。
<CCL1発現マウスにおける肺気腫モデルの作成、及び細菌性気道感染後の病態の検討>当教室では肺気腫動物モデルとして、喫煙負荷によるモデルと、エラスターゼ投与によるモデルを用いている。前者はモデル作成のために数ヶ月を要するが、後者では約3週間での作成が可能となる。両者の併行により、当該年度内に表題の研究計画を遂行することが可能となると予想される。本遺伝子改変マウスとコントロールマウスに対して喫煙負荷装置(MIPS社)を用いて、20本/日×6ヶ月間(週5日間)の長期間にわたり全身暴露喫煙負荷をかける。我々は以前この方法を用いてマウスに肺気腫が形成されることを報告している(Hirama N et al. Respirology 2007)。よって当方法にて確実に肺気腫が形成されることが期待できる。またエラスターゼ気管内投与により肺気腫を作成した上で、細菌性気道感染症を誘発し、以下の項目を検討する。(1)感染後の生存率を比較する。(2)BAL液中の肺胞マクロファージ、好中球、リンパ球の動態を検討する。(3)BAL液及び血清中の炎症性サイトカイン、ケモカインの動態をELISA法により検討する。(4)気道感染後の肺組織の変化を観察する。(5)肺組織中の蛋白やmRNAを採取し、Western blotting やRT-PCRにより炎症性サイトカイン、ケモカインの動態を検討する。
行われる研究は山形大学の研究室の設備にて全て施行可能であるため、新たな設備費用は不要である。そのため請求した研究経費の大部分は消耗品に当てられている。細菌性気道感染を誘発する実験においては、本遺伝子改変マウス及びコントロールマウス共に相当数の個体が必要となるため、マウス維持費に必要な経費が必要である。また細菌感染症の検討を行うに当たり、細菌培養のための培地が必要であり、そのための予算が必要である。現在までに得られた知見を学会などで発表し、議論を行うために学会出席のための費用や、論文作成のための費用が必要である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
Int J Med Sci
巻: 10 ページ: 1-7
10.7150/ijms.5003
Eur Respir J
巻: Nov ページ: EPub
10.1183/09031936.00066212
Lung
巻: 190 ページ: 169-182
10.1007/s00408-011-9331-2