研究課題
喘息は慢性気道炎症を特徴とする疾患であり、その病態にはTh2サイトカインが中心的な役割を担っている。しかし一方で、臨床試験において抗Th2サイトカイン抗体やIFNγは治療薬として期待された抗炎症効果が認められず、Th1/Th2バランスに基づいた概念だけでは説明できない病態の存在が示唆されている。難治性喘息では、しばしば気道内において好酸球のみならず好中球の浸潤を認め、ステロイド抵抗性を示すことが知られている。これらの患者群では、喀痰中のIL-17濃度が増加し、喘息の重症度とIL-17レベルが相関するとの報告もあり、IL-17が難治性喘息の成立に関与している可能性が推察される。IL-17産生細胞であるTh17細胞は、Th1細胞やTh2細胞と共通の前駆細胞より分化し、その分化誘導には転写因子RORγtが重要であることが明らかにされている。そこで、RORγtの過剰発現によって誘導されるTh17サイトカイン環境が難治性喘息をもたらす要因の一つではあるという仮説をたて、研究を行った。まず、RORγtを過剰発現する遺伝子改変マウス (RORγt-tg)と、Th2分化誘導に重要な転写因子GATA-3を過剰発現する遺伝子改変マウス (GATA-3-tg)を用い、OVA誘導性気道炎症におけるGATA-3、RORγtの役割について検討した。その結果、GATA-3-tgにおいては、Th2サイトカインが優位な環境下で好酸球性気道炎症が誘導され、一方でRORγt-tgにおいては、IL-17A、IL-22などのTh17サイトカインが優位な環境下で好中球性気道炎症が誘導された。同時に、RORγt-tgの肺では、KC、MIP-2などの好中球走化因子や、IL-6が有意に増加していることを確認した。今後は、鍵となる炎症性メディエーターに対する抑制実験を行い、気道炎症を制御できるか検証する。
2: おおむね順調に進展している
Th2細胞の特異的転写因子であるGATA-3を過剰発現させたマウス(GATA-3-tg)と、Th17細胞の特異的転写因子であるRORγtを過剰発現させたマウス(RORγt-tg)を用いてOVA抗原特異的気道炎症のモデルを確立した。それぞれの系統のマウスにOVA100μgをday0およびday14に皮下注(感作)し、day28にOVA10μgを経鼻的に投与(曝露)した。いずれの系統の抗原特異的気道炎症モデルにおいても、OVA曝露による気道抵抗の上昇がみられ、喘息のモデルになり得ることを確認した。OVA曝露後に各系統の喘息モデルマウスにおいて、気道抵抗、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の細胞数、細胞分画、肺組織の(HE染色)にて気道炎症のフェノタイプ、肺リンパ球の細胞内サイトカインやBALF・肺組織におけるサイトカイン・ケモカインの発現を解析した。研究の達成度としては、概ね予定どおりと考えている。
予備実験の段階で、RORγt-tg喘息マウスとGATA-3-tg喘息マウスとでステロイド反応性が異なっていたことから、昨年度から引き続き、ステロイド抵抗性を獲得した機序について検討する。ステロイド抵抗性にはリガンド結合活性をもたないglucocorticoid receptorβ(GRβ)の増加が関与することが報告されており、我々もGRβに注目し、RORγt-tg喘息マウスのBALFや肺組織においてGRαとGRβが量的、質的に変化していないかreal-time PCR法およびWestern immunoblot法にて解析する。加えて、ステロイドがクロマチンレベルで抗炎症作用を発揮するためにはactivating histone deacetylase 2 (HDAC2)によるヒストン脱アセチル化が重要であるが、このHDAC2の発現もreal-time PCR法にて解析する。さらに、ステロイド抵抗性好中球性気道炎症において特異的に変動するメディエーターに対する抑制実験を行い、ステロイド抵抗性好中球性気道炎症を制御できるか検証する。一方、気道リモデリングも喘息の難治化の重要な要因であることから、気道上皮の杯細胞化生、基底膜肥厚、平滑筋の過形成などにおけるTh17細胞の役割についても検討を加える予定である。
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Respiratory Trends
巻: 2 ページ: 12-15