研究課題/領域番号 |
23591123
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
金澤 博 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90332957)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 慢性閉塞性肺疾患 |
研究概要 |
COPDにおける肺血管リモデリング強度の非侵襲的評価法を確立した。第一に、組織学的に評価した肺血管リモデリングの程度を手術摘出肺を用いて定量化し、このリモデリングの強度と肺組織に発現するgrowth factorとの相関関係を明らかにした。我々は、既にこれらの検討の中で、血管内皮増殖因子(VEGF)の肺血管内膜での発現量が、肺血管リモデリングの強度を鋭敏に反映していることを明らかにしている。さらに、この血管内膜上でのVEGF発現量は、末梢気道上皮細胞での同因子の発現量と極めて高い相関関係を有しており、経気道的な検索から肺血管リモデリングの程度を推測できる可能性を示した。さらに、COPD患者において我々の施設が考案した中枢・末梢気道から各々個別に気道上皮被覆液を採取するマクロサンプリング法を用いて、検体中のgrowth factorを網羅的に探索した。同時に、右心カテーテル挿入下の運動負荷試験を施行し、運動に伴う肺循環動態から見た肺高血圧の程度を、最も鋭敏に反映するバイオマーカーを決定した。次に、ヒト肺血管内皮細胞を用いて、growth factorによる刺激時の増殖活性を測定し、患者対象研究から選別したバイオマーカーのスクリーニング結果との整合性を示した。また、肺高血圧のモデルマウスを用いて、アンジオテンシン受容体阻害薬、PPARγ刺激薬、スタチン等の投与が及ぼすgrowth factorの発現量の変化、growth factorの阻害薬投与実験による肺血管リモデリングの退縮効果についても検討を加え、COPD患者を対象とした肺血管リモデリングの進展予防に対する効果が有望視される薬剤の選択に着手し、次年度以降その成果をもとに臨床試験に結び付けてゆく理論的支柱とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の施設は、従来より慢性呼吸器疾患患者に対して積極的に気道上皮被覆液の解析、肺生検組織を用いた免疫組織学的な検索を行ない、そこから得られた知見より新規病態生理の確立や有効な治療法の開拓に努めてきた。さらに、多くの運動負荷試験の結果により運動に伴う肺循環動態の変化、肺血管内皮細胞機能の評価を行ない、肺循環系に関する多くの知見を積み重ねてきた。同時に、近赤外線分光器(NIRS)を用いて、非侵襲的な末梢骨格筋への酸素運搬能の評価も行ってきた。このような施設環境を背景に、今回の当研究においても、研究計画通りに、おおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
COPD患者の右心・左心機能低下に及ぼす肺の構造的・機能的障害の意義を、細胞生物学、モデル動物実験、患者対象研究・薬剤による介入試験を通して明らかにし、COPDにおける"心肺連関"という基本概念の確立とその臨床への応用を通して、斬新な治療戦略を構築する。特に、臨床的評価においては、我々の施設が多くのデータを集積してきた右心カテーテル挿入下運動負荷法、肺の上皮被覆液の検体採取法としてのマイクロサンプリング法、摘出肺の免疫組織学的手法、細胞生化学実験やモデル動物を用いた成長因子の機能解析法等を駆使し、今回企画した研究を遂行する。さらに、心肺連関を基盤とした治療モデルの実践が、個々の患者の末梢筋への酸素運搬能や酸素利用効率の向上に寄与していることの評価のために近赤外線分光器を用いた末梢循環レベルでの循環動態についても検討することとし、両疾患の包括的な治療戦略を提唱する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、COPDにおける左室拡張障害の評価とその臨床的意義について検討する。左室拡張障害については、安静時での評価と運動時での評価に分けて行う。安静時での左室拡張障害の評価は、主に心臓超音波検査、MRI検査にて行う。しかしながら、COPDでは、運動時に肺過膨張が増強し、左室拡張障害が顕在化するものと考えられ、右心カテーテル挿入下運動負荷試験にて経時的な心血行動態を測定し、右心不全とは独立した左室拡張障害を定量的に評価し、合わせてANP,BNP,エンドセリン等の心血管作動物質のバイオマーカーとしての可能性を検討する。また、COPDの重症度と左室拡張障害との関連性を評価するのみならず、左室拡張障害の成立・進展を規定する可能性のある遺伝子を網羅的に検索し、ハイリスクグループの抽出に努める。次に、運動時の肺過膨張を軽減させる薬剤である吸入抗コリン薬、β2刺激薬の投与前後における運動時の肺過膨張低下率と左室拡張障害の改善度を比較検討し、肺過膨張軽減の左室拡張障害に及ぼす臨床的意義を明らかにする。この際に、侵襲的な右心カテーテル検査を複数回繰り返す必要性を回避するために、連続的呼気ガス分析から得られたVO2/HR (O2 pulse; SV×[CaO2-CvO2])の左室拡張障害の生理学的指標としての有用性を、実測した一回心拍出量との比較により明らかにし、左室拡張障害を反映する生理学的指標としての意義を明確化する。
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