研究課題/領域番号 |
23591123
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
金澤 博 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90332957)
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キーワード | 慢性閉塞性肺疾患 / 左室拡張障害 / 肺過膨張 |
研究概要 |
今年度の研究実績としてCOPDに併存する左室拡張障害の臨床的意義を明らかにした。最初に、COPDの左室拡張機能を安静時と運動時において個別に評価した。安静時における左室拡張機能の評価は、主に心臓超音波検査にて実施した。一方、運動時においては、肺過膨張が運動強度に応じて増強し左室拡張障害を顕在化させると推察されるため、右心カテーテル挿入下運動負荷試験にて経時的な心血行動態を測定することにより、左心機能を定量的に評価した。同時にANP,BNP,エンドセリン等の心血管作動性物質のCOPDに併存する左室拡張障害を鋭敏に反映するバイオマーカーとしての有用性を検討した。さらに左室拡張障害の成立および進展を規定すると考えられる候補遺伝子を網羅的に検索し、左室拡張障害を併存しやすいハイリスクグループの選別を可能なものとした。次いで、運動時の肺過膨張を軽減させる可能性をもつ薬剤としての吸入抗コリン薬、β2刺激薬の投与前後における運動時の肺過膨張低下率と左室拡張障害の改善度との関連性を検討し、肺過膨張軽減による左室拡張機能に及ぼす薬理学的有用性を確立した。この際に、侵襲的な右心カテーテル検査を複数回繰り返す必要性を回避するために、連続的呼気ガス分析から得られたVO2/HR (O2 pulse; SV×[CaO2-CvO2])の左室拡張障害の生理学的指標としての有用性を明らかにするために、実測の心拍出量との関連性を評価し、左室拡張障害を反映する非侵襲的生理学的指標としての有用性を明らかにした。さらに、COPD患者の併存症としての心血管疾患には、左室機能障害以外にも、血管弾性能の低下が関与することを明らかにし,血管弾性能の低下を誘導かつ増悪させる因子を同定した。すなわち、心筋組織や血管壁内の間質組織に蓄積することで、心臓・血管の弾性能を喪失させる因子の存在を初めて明らかにしたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性閉塞性肺疾患(COPD)と心血管疾患は、その成因と進展のメカニズムに多くの類似点を有し、両疾患を合併した症例では相互に病態生理学的特徴を修飾し、臓器機能障害を加速させるという負のサイクルが存在する。我々はこのような両疾患の病態生理学的クロストークに着目して、“心肺連関”という新しい概念を提唱している。今回、この概念を基盤として、COPD患者の診断・治療の過程における心血管機能評価の重要性を明らかにし、両臓器の包括的機能評価により初めて可能となる新規治療戦略の可能性を明らかなものとするために当研究を実施している。今回の研究課題から得られた成果により、単独臓器を標的とした治療介入では到底なしえないものの、この概念を基盤として展開された薬物治療では達成しうる両臓器の機能改善効果についても検証を進めており、現在のところ研究の進捗状況は研究計画通りであり、順調な進展状況と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、COPD患者の血管弾性能の低下・左室拡張障害に対する有効な治療薬および予防薬を、細胞生化学的実験・モデル動物を用いた検討より明らかにし、その成果を臨床試験へと発展させる。我々は、COPD患者の運動負荷試験時における、微小循環系及び末梢筋への酸素運搬能を経時的・定量的に評価する複数の方法を既に確立しており、これらの手法を応用して心肺連関の観点から見た画期的な治療戦略を提唱する。つまり、ヒト肺血管内皮細胞を用いて、growth factorによる刺激時の増殖活性を測定し、患者対象研究から選別したバイオマーカーのスクリーニング結果との整合性を図る。また、肺高血圧のモデルマウスを用いて、アンジオテンシン受容体阻害薬、PPARγ刺激薬、スタチン等の投与が及ぼすgrowth factorの発現量の変化、growth factorの阻害薬投与実験による肺血管リモデリングの退縮効果についても検討を加え、COPD患者を対象とした肺血管リモデリングの進展予防に対する効果が有望視される薬剤の選択に結びつける。そして、これまでの我々の研究により明らかにされた肺血管リモデリング・左室拡張障害の進展予防に対して、有望視される薬剤における臨床試験を進める。また、心肺機能の相互的な機能障害は、末梢骨格筋への酸素運搬能障害として包括的に評価される。その際の評価項目に、従来用いられてきた動脈血中乳酸値、混合静脈血酸素濃度以外に、今回の研究にて有用性を明らかにしたバイオマーカーや左室拡張障害を反映する生理学的指標に合わせて、近赤外線分光器(NIRS; near-infrared spectroscopy)を用いて非侵襲的に末梢循環系から見た末梢筋への酸素運搬能を評価し、心肺連関に基づいた治療成果を客観的に評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究においては、臨床的研究が主体であり、研究費の一部を次年度に繰り越すことが可能となった。平成25年度においては、これまで重症呼吸不全・心不全と診断され、治療上の限界と多大な医療経済的負担を余儀なくされてきた患者群に対して、画期的な治療成果を提供してゆくためにCOPD患者の血管弾性能の低下・左室拡張障害に対する有効な治療薬および予防薬の創薬化をめざして、細胞生化学的実験・モデル動物を用いた検討を実施し、その成果を臨床試験へと発展させてゆく。そこで平成25年度は、消耗品として気道上皮被覆液を採取する際の特殊な内視鏡備品としてのマイクロサンプリング・プローブの購入用の経費を計上する必要がある。この検討では多数の対象患者に対して、検体の採取が試みられる予定であり、消耗品の中で大きな割合を占めることになる。合わせて、動物モデル作成に関する経費、免疫組織学的研究に対して用いられる抗体と試薬、各種成長因子測定用のRIA・ELISA kit の購入用経費も計上する必要がある。そのうえ、当年度の成果を国際学会にて報告し、英語論文にて発表するための英文校正費、海外旅費を若干ながら計上する。
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