COPD患者における労作時の肺過膨張を軽減させる代表的な薬剤である吸入抗コリン薬、β2刺激薬を用いて、薬剤投与前後の運動時肺過膨張の軽減率と左室拡張障害の改善度を比較検討し、肺過膨張軽減による左室拡張障害の改善効果がもたらす臨床的意義を明らかにした。また、侵襲的な右心カテーテル検査下運動負荷試験を複数回繰り返す必要性を回避するために、連続的呼気ガス分析から得られたVO2/HR (O2 pulse; SV×[CaO2-CvO2])の左室拡張障害を反映する指標としての有用性を、実測した一回心拍出量と比較することによって明らかにした。これらの結果を基に、左室拡張障害の客観的な生理学的指標としてのO2 pulseの有用性を明確なものとした。ついで、COPD患者の併存症としての心血管疾患には、左室拡張機能障害以外にも、血管弾性能の低下が注目されている。そこで血管弾性能の低下を誘導し、増悪させる因子についても検討を加えた。近年、心筋組織や血管壁内の間質構造に蓄積することで、心臓・血管の弾性能を喪失させる因子の存在が明らかにされており、このような心血管機能の障害を誘導する可能性が示唆される因子に関しても詳細に検討を加えた。そして、同因子の同定に成功し、さらにはCOPD患者における同因子の生体内での過剰状態も明らかにした。この因子の組織への過剰集積が、血管弾性能の低下、ひいては左室拡張機能障害の進展を誘導するとの仮説を実証するために、今後、当因子の測定を速やかに臨床応用へと導いてゆくための臨床試験を計画中である。さらに、今回の課題研究の成果から明らかにされた肺血管リモデリング・左室拡張障害の進展機序を基盤として、その予防に対しての有効性が期待される薬剤に対して、その有効性を確認する臨床試験を進める予定である。
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