研究課題/領域番号 |
23591127
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
玉置 淳 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (60147395)
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キーワード | 気道上皮 / 細胞増殖 / 粘液分泌 |
研究概要 |
1.気道上皮細胞の増殖およびムチン分泌反応(in vitro):マウス気管粘膜上皮細胞を短時間作用性β2刺激薬であるサルメテロール存在下で培養し,タンパク合成とDNA合成を測定した.その結果, [3H]-thymidineと[3H]-leucineの取り込みはいずれも濃度依存的に増加した.また,サルメテロール刺激によるMAC5AC mRNA発現をRT-PCRとNorthern blotにて評価すると,かかるムチン遺伝子の発現が誘導された.さらに,上記のいずれの効果もICI-118551の前投与により消失したことより,気道上皮細胞β2受容体の活性化を介していることが明らかとなった. 2.ERK活性化の評価(in vitro):サルブタモール刺激の後,ERK(非活性型)とリン酸化ERK(活性型)のそれぞれのモノクローナル抗体を用いた免疫染色を施すとともに, Western blotを行った.その結果,この短時間作用性β2刺激薬はリン酸化ERKの発現を惹起し,さらにphenyulmethyl sulfonylfluorideの存在下で測定したERK活性も濃度依存的に上昇した. 3.アダプター分子の会合(in vitro):EGFRとGrb2関連蛋白のイムノブロット解析を行い,サルメテロールによるEGFRのリン酸化以降の細胞内シグナル,特にRas-ERKカスケードの関与について検討した.サルメテロール刺激はEGFRおよびShcの発現を誘導することが判明し,Shcのリン酸化は特異的HB-EGFブロッカーである[Glu52]diphtheria toxinによって有意に抑制された.さらに,HB-EGFの産生は1,10-phenanthrolineにより消失した.したがって,本実験系系のシグナル伝達においては,蛋白分解酵素によるHB-EGFのsheddingの関与の関与が推測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
気道上皮細胞の増殖およびムチン分泌反応(in vitro)の検討においては,β2受容体刺激によるタンパク合成とDNA合成の増加反応を定量的に評価することにより,当初の仮説を検証することができた.しかし, dominant-negative Ras mutant (AdRasY57)を用いた実験では,アデノウイルスによる上皮細胞へのトランスフェクションが不十分であり,シグナル伝達経路におけるRas-ERKカスケードの関与を直接証明するには至らなかった. 一方, ERK活性化の評価(in vitro)については,蛋白質発現とリン酸化のいずれの実験も有意な所見が得られ,気道上皮細胞のβ2受容体刺激は本酵素のリン酸化をきたし活性型ERKの発現を促すことが明らかとなった.また,ERKの活性測定においても,β2刺激薬が本酵素活性を濃度依存的に上昇させることが証明され,当初の実験計画に沿って施行することが可能であった. アダプター分子の会合(in vitro)に関する検討においても, EGFRとGrb2関連蛋白のイムノブロット解析,特異的HB-EGFブロッカーによる阻害実験とも成功し,気道上皮細胞の増殖に関わるアダプター分子の会合や,その効果におけるHB-EGFの役割も明らかとなった. HB-EGFのsheddingとmetalloproteinase(in vitro)の検討でも,[Glu52]diphtheria toxinや1,10-phenanthrolineを用いた実験により, EGFのリガンドがHB-EGFである可能性が高いこと,またかかる増殖因子の産生にはmetalloproteinaseが関与していることを薬理学的に証明することができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に行った一連のin vitroの実験系において,長時間作用性β2刺激薬と短時間作用性β2刺激薬の両者は,気道上皮細胞の増殖・分化を促し,同時にリン酸化EGFRの遺伝子発現,EGFRとアダプター分子(ShcおよびGrb2)の会合,ERKのリン酸化などを引き起こすという仮説を支持する証拠が得られた.また,このような細胞増殖反応やMAC5AC発現は,metalloproteinase阻害薬,HB-EGF阻害薬などにより抑制されることも観察され,蛋白分解酵素によるHB-EGFのsheddingの関与(すなわちmetalloproteinaseを介するEGFRのtransactivation)が明らかとなった.今後は,今年度には成果が得られなかったdominant negative Ras mutantの気道上皮細胞へのトランスフェクション実験に取り組み,EGFRの活性化,すなわち上記のtransactivationが引き続いてRasのリン酸化を引き起こす細胞内シグナル伝達経路の関与を証明する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,β2受容体刺激によってもたらされる粘液線毛機能機能の変化をin vitroおよびex vivoの系で評価する.我々は,長時間作用性β2刺激薬に曝露された気道では,気道上皮細胞の線毛運動が賦活される一方で,粘稠なムチン分泌が増加することにより粘液線毛輸送が障害され,ひいては気道クリアランスの低下がもたらされるものと推測している.そこで前者のin vitroの系では,マウス気管上皮細胞をRose chamberにマウントし,種々の濃度のサルメテロールを灌流しphotoelectric法により線毛運動周波数を測定する予定である.また後者のex vivoの系では,マウスを麻酔し,気管を縦切開し粘膜表面を露出させ,気管分岐部直上にEvans blue dyeを滴下し,サルメテロールを大腿静脈より投与する.次いで経時的に気管を摘出し,近位部から遠位部まで4等分し,各々の組織片中の色素量を測定することにより,粘液線毛輸送速度を評価する.また,粘膜表面の粘液を洗浄除去した条件で同様の測定を行い,気道クリアランス障害における粘液分泌の関与を検討する計画である.
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