研究課題
本研究はcJun阻害を利用した非小細胞肺癌の癌幹細胞を標的にした治療法の開発を目標とし、平成23年度に、癌幹細胞が濃縮されると考えられているlow attachment plate上での無血清培地によるspheroid形成培養を、種々の非小細胞肺癌細胞株(PC-3、NCI-H1975、NCI-H1299、およびA549)で確立し、NCI-H1299細胞においては、tet-onシステムによるcJun dominant negative mutantの誘導によって、spheroid形成能が低下することを見出した。平成24年度は、spheroid形成細胞が癌幹細胞の特徴である高い造腫瘍能を有しているか検討した。spheroid形成培養したNCI-H1299細胞とA549細胞をNOD/SKIDマウスへ移植したところ、コントロールの単層培養した細胞と比較し有意な腫瘍形成能の上昇を認めなかった。一方、研究代表者は幹細胞の維持に関係するポリコーム遺伝子EZH2が非小細胞肺癌で高発現し予後不良因子であることを報告していたが、siRNAによるEZH2のノックダウンやEZH2阻害効果を有する小分子化合物DZNepが上記4種類の非小細胞肺癌細胞の増殖を抑制し、G1期停止とアポトーシスを誘導することを見出した。不死化正常気管支細胞や線維芽細胞ではこれらの効果は有意に小さかった。EGFR遺伝子異常を有するH1975とPC-3においてDZNepの効果はより強くみられ、cyclin Aの発現を低下とp27の発現亢進を認めた。DZNepはEZH2の発現とEZH2依存的なヒストンH3リジン27のトリメチル化を低下させることを確認した。以上の結果、幹細胞シグナルの一つであるEZH2の抑制が肺癌細胞の増殖に重要な役割を果たしていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度に長期継代の難しかったspheroid形成培養は、培養面にすり鉢状のマイクロウェルが施されているlow attachment plate培養容器を用いることにより可能となったが、癌幹細胞の特徴である高いin vivoでの腫瘍形成能を示さなかった。このため、癌幹細胞については、現在ALDHとCD44によるFACSでの細胞選択を試みている。一方、特に胎生期の幹細胞シグナルとして重要なEZH2がヒト肺癌で発現が亢進し、その発現や活性を抑制することにより、肺癌細胞の増殖が抑制されることを示すことができた。ヒストンメチル化酵素であるEZH2は肺癌のエピジェネティクスを制御する新しい分子標的と考えられる。本研究の成果は、平成24年度の日本癌学会シンポジウムで発表し、Lung Cancer誌に掲載することができた。DZNepは、獲得耐性遺伝子異常を含むEGFR遺伝子異常のある肺癌細胞により強い効果が見られるという興味深い結果も得られ、現在その機序を分析中である。更に、同じエピジェネティクスに関わるヒストン脱アセチル化酵素の阻害が、EZH2の阻害と相乗効果を示す予備的な実験結果も得られている。
DZNepとヒストン脱アセチル化酵素阻害剤SAHAとの併用効果について、MTT法、アポトーシスアッセイ、Western blot法やFACS法を用いて解析する。予備実験では相乗的な細胞増殖抑制効果を認めている。更に、in vivo腫瘍形成能における抑制効果を検討する。EGFRシグナル経路への影響を検討し、EGFR遺伝子変異陽性細胞については、EGFR阻害剤との併用効果を検討する。cJun N-terminal kinase阻害剤であるSP600125の併用効果も検討する。癌幹細胞マーカーであるALDHとCD44を用いたFACSによる細胞選別を行い、in vivoで高い腫瘍形成能が示されるか検討する。癌幹細胞の濃縮された分画が得られれば、DZNep、SAHA、EGFR阻害剤、cJun阻害剤のコンビネーション治療の効果を検討し、より有効な癌治療の開発を目指す。
該当なし
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Ann Oncol
巻: 24 ページ: 54-59
10.1093/annonc/mds214
Lung Cancer
巻: 78 ページ: 138-143
10.1016/j.lungcan.2012.08.003
Nat Immunol
巻: 13 ページ: 832-842
10.1038/ni.2376