研究課題/領域番号 |
23591134
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
砂長 則明 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70400778)
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キーワード | 非小細胞肺癌 / KRAS遺伝子変異 / EGFR遺伝子変異 / Epiregulin / 分子標的治療 |
研究概要 |
KRASやEGFR遺伝子コピー数増加がEGFR/ KRAS/BRAF変異以外のメカニズムとしてEREG発現誘導に関与するか検討するため、非小細胞肺癌(NSCLC)細胞35株でのKRASやEGFR遺伝子コピー数とエピレグリン(EREG)発現との相関解析を行った。EREG発現とKRASコピー数との有意な正相関はKRAS変異NSCLC群で認める一方で、EREG発現とEGFRコピー数との有意な正相関はEGFR/KRAS/BRAF野生型NSCLC群で認めた。以上より、KRAS変異NSCLCではKRAS変異にKRAS遺伝子増幅が加わることでEREG過剰発現が誘導される一方、EGFR遺伝子増幅はEGFR/KRAS/BRAF野生型NSCLCでのEREG過剰発現に関与することが示唆された。 NSCLC手術検体を174例まで追加してEREG発現解析を行った。EREGは主に腺癌で発現しており、さらに腺癌136例では高齢者(≧70歳)、男性、喫煙者、胸膜/リンパ管/脈管浸潤陽性群でEREG発現が高かった。EGFR/KRAS変異別ではEGFR変異群と比較して、KRAS変異群やEGFR/KRAS野生型群でEREG発現が高かった。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療歴のない肺腺癌119例での予後解析では、EREG高発現群は低発現群より術後無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)共に有意に短く、Cox比例ハザードモデルによる単変量及び多変量解析でもEREG高発現はDFSとOSの予後不良因子であった。さらにKRAS変異型/EREG高発現NSCLC患者群はKRAS野生型/EREG低発現群よりDFS、OS共に有意に短かった。以上より、NSCLCにおいてEREG過剰発現が高悪性度の獲得に寄与し、EREG高発現は予後不良因子であり、特にKRAS変異陽性かつEREG高発現の肺腺癌患者は予後不良であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NSCLC細胞株において、EGFR、KRAS、BRAF変異によるEREGのup-regulationは、各遺伝子を標的としたsiRNAや、EGFR、KRAS、BRAFのキナーゼ阻害剤などにより検証できた。また、KRAS遺伝子コピー数やEGFR遺伝子コピー数とEREG発現との相関解析により、KRAS変異NSCLCではKRASコピー数増加が、EGFR/KRAS/BRAF野生型NSCLCではEGFRコピー数増加が、EREG発現と各々有意に正相関することを発見し、KRASやEGFRの遺伝子増幅がEREGのup-regulationに関与する可能性が示唆された。一方、ヒト気管支上皮細胞株へのKRAS変異またはEGFR変異強制発現クローンの作成は未達成であり、EREGの転写発現制御に関与する可能性のある転写因子の同定も未達成である。 NSCLC患者におけるEREG発現の臨床病理学的な検討は、NSCLC手術検体174例まで追加し、検体から抽出したRNAやgenomic DNAを用い、EREG発現解析や、EGFR遺伝子とKRAS遺伝子の変異解析を完了した。その上で、EREG発現が肺腺癌に特異的に発現していることから、対象を肺腺癌136例に絞った上で、EREG発現と臨床病理学的因子やKRAS変異、EGFR変異との相関解析や、予後解析を完了することができた。 KRAS変異陽性NSCLC細胞株における抗EREG治療の腫瘍増殖抑制効果の検討についても、H358以外のKRAS変異陽性/EREG高発現NSCLC株では、H358細胞株同様にEREGを標的としたsiRNAによるEREG発現抑制がin vitro細胞増殖を抑制するか、またアポトーシスを誘導するかについては未検討である。さらに、EREG発現抑制がヌードマウスを用いたin vivo実験でも認められるかについても未確認である。
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今後の研究の推進方策 |
EGFR、KRAS、BRAF変異によるEREGのup-regulationのメカニズムについては、ヒト気管支上皮細胞株でのEGFR変異、KRAS変異またはBRAF変異強制発現クローンを作成し、EREG発現が誘導されるかどうか検証する予定である。また、NSCLC細胞においてEREG転写発現制御に関与する転写因子の探索についても、EGFR-RASシグナル伝達経路の下流でEREGの転写発現制御に関わっている可能性のあるEts-1を含めた様々な転写因子とEREG発現との関与を調べる予定である。 NSCLC患者におけるEREG発現の臨床病理学的な意義については、現在検体数を肺腺癌で200例まで増やして、EREG発現が悪性形質獲得に寄与し、予後不良因子となるのかどうか、これまで得られている結果についてさらに検証する予定である。 EGFR変異、KRAS変異、BRAF変異が陽性のNSCLCにおけるEREGを標的とした治療の可能性は、EREG siRNAや抗EREG中和抗体による細胞増殖抑制効果やアポトーシス誘導効果、ヌードマウスを用いたin vivoでのEREG抑制腫瘍増殖抑制効果について、既に検証済みであるKRAS変異NSCLC細胞株H358の他に細胞株を増やして検討する予定である。また、siRNAや抗EREG中和抗体によるEREG発現抑制が、EREGのレセプターであるEGFR familyやその下流のシグナル伝達系にどのように影響を受けるのか調べ、抗EREGによる腫瘍抑制効果のメカニズムについても調べる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
KRAS変異/EGFR変異陽性NSCLC細胞におけるEREG発現制御メカニズムの検討のため、細胞実験に必要な培養器具や培地、ヒト気管支上皮細胞株でのEGFR変異、KRAS変異またはBRAF変異強制発現クローンの作成のためのレトロウイルスベクターの作成、RNA抽出やcDNA合成、PCR反応に必要な各種試薬、EREG転写制御解析を行うためのルシフェラーゼアッセイに必要なベクターや試薬などを購入する予定である。 また、NSCLC患者におけるEREG発現の臨床病理学的な意義を検討するための実験に必要なものとして、手術検体からのRNA、genomic DNA抽出に必要な試薬、リアルタイムRT-PCRに必要なTaqMan probeを含む試薬やPCRプレート、免疫組織染色に必要な実験器具、抗体、試薬、EGFR遺伝子のexon18-21、KRAS遺伝子のexon1-2の変異解析のためのSmartAmp2法高感度変異検出キット(ダナフォーム社)の購入を予定している。 その他、KRAS変異/EGFR変異陽性NSCLCにおける抗EREG治療の腫瘍増殖抑制効果やそのメカニズムについての検討に必要なものとして、EREG siRNAやEREG中和抗体、MTTアッセイやBrdU細胞増殖アッセイ、液体培地及び寒天培地でのコロニー形成試験に必要な各種試薬、Cleaved Caspase 3抗体やanti-PARP抗体を用いたウェスタンブロット法、TUNEL法、Annexin Vによる細胞表面のフォスファチジルセリン検出法などのアポトーシス解析に必要な試薬、Boyden chamberを用いたmigration assayやMatrigel invasion assayのための試薬、EGFR familyやそのシグナル下流の蛋白のリン酸化抗体含む各種抗体を購入予定である。
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