研究課題
昨年度の研究により、メトホルミンは細胞増殖抑制作用を示すが、腫瘍細胞非特異的であり、cytostaticであること、その機序は細胞株により異なるが、小細胞肺癌株ではアポトーシス誘導が、それ以外の細胞株(腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌)では細胞周期のG0/G1ブロックが大きく関与すること、シスプラチンとは拮抗的に作用することが示され、その概略をOncology Reportsに論文発表した。今年度は、EGFR遺伝子変異を有するヒト肺腺癌細胞株を用いたマウスxenograftモデルにおいて、1)既に臨床的に確立された腫瘍に対してはメトホルミンは腫瘍増殖抑制効果がないこと、2)ゲフィチニブの腫瘍縮小効果に対して、なんらの相加・相乗効果も示さないこと、3)しかし、ゲフィチニブにより縮小した腫瘍においては、ゲフィチニブ治療中断による再増殖をメトホルミンは著明に抑制すること、を明らかにした。その機序につき一連のin vitro実験で検討した結果、メトホルミンは a) ヒト肺腺癌細胞に対してin vitroで抗腫瘍効果を示すが、その際、b) 著明なアポトーシスは認められず、c) 明らかな細胞周期シフトも生じないことが明らかとなった。しかし d) ゲフィチニブ処理によりCD133陽性細胞とCD44陽性細胞がenrichされることと、e) メトホルミンはこれら細胞に対しても有効に殺細胞効果を示すこと、が明らかとなった。CD133およびCD44陽性細胞は、他癌腫において癌幹細胞の候補と考えられており、ヒト肺腺癌においても、ゲフィチニブ処理によりCD133、CD44陽性の癌幹細胞は治療抵抗性であり、メトホルミンはこの癌幹細胞に対しても有効である可能性を示唆する結果と考えられる。以上の結果は、現在 Journal of Thoracic Oncology に投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
申請時の計画通りの進展であり、次年度の研究準備も整っている。
本年度の結果は、メトホルミンがヒト肺腺癌の幹細胞に対して効果を有することを示唆するものであるが、この詳細を明らかにするため、in vivoにおける、癌幹細胞性実験モデルを開発する。薬剤耐性細胞が癌幹細胞であることをin vivoで示すには、縮小した腫瘍を同定することが困難であり、研究遂行の支障となることが推測される。従って、腫瘍細胞(PC9細胞)にルシフェラーゼ遺伝子を導入し、蛍光顕微鏡で癌幹細胞あるいは上皮間葉移行細胞(EMT)を容易に鑑別できるようにし、ゲフィチニブで初期耐性を示す腫瘍細胞の特徴を癌幹細胞マーカー、およびEMTマーカー、その他の表現形を調べることにより明らかにし、メトホルミンがそれらの細胞にどのような影響を与えるかをそれらのマーカーの詳細な検討を行うことにより明らかにする。それにより、メトホルミンの癌幹細胞、EMTに対する役割を明らかにし、臨床的応用について検討する。
平成24年度の成果を論文投稿したので、掲載料、別冊費用がかかる。癌幹細胞、EMTマーカー解析のため、ハイブリダイゼーション・オーブンを備品として購入する。それ以外はマウス、プラスチック器具、薬品などに使用する。本年度は、当初計画よりも順調に結果がでたために、消耗品・動物の使用量が少なくて済み、繰越金が生じた。一方、本年度の成果により次年度はより発展的な研究を行う展望が開けたため、繰越金はこの研究に使用する必要がある。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件) 学会発表 (2件)
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