研究課題
マウスメラノーマであるB16に、1%未満という極小数ではあるが癌幹細胞マーカーの一つであるCD133を発現する腫瘍細胞が 存在することを見出し、これを分離、純化することに成功した。このCD133陽性メラノーマはspheroid形成能、in vivo腫瘍形成能が高 く、癌幹細胞としての形質を有していることを明らかとした。このCD133陽性腫瘍はCD133陰性腫瘍に対して高免疫原性であり、 この腫瘍細胞を抗原として樹状細胞でワクチンすることにより親株腫瘍に対する強い抗腫瘍効果を得られることが明らかとなった。この成果は、国際学会で発表 した後、2011年にCancer Immunology Immunotherapyにpublishした。さらに、蛋白発現を網羅的に解析することでCD133陽性腫瘍に特異的に発現している4つの蛋白質を同定した。その一つであるDDX3Xはヒト非小細胞肺癌、大腸癌、乳癌、及び小細胞肺癌において発現されていた。これまでに、小細胞肺癌限局型患者には遠隔転移を生じた進展型患者にはみられないエフェクター型CD4 T細胞が誘導されていることを我々は報告してきた (2008, Clinical Cancer Research)。そこで、この限局型小細胞肺癌患者末梢血中に誘導された抗腫瘍エフェクターT細胞がDDX3Xを認識するか否か検討した。この結果、健常人、遠隔転移を持つ進展型では全く反応が見られなかったものの、限局型小細胞肺癌患者10名中4名にはDDX3Xに対してIFNgを産生するCD4 T細胞を認めた。一方、マウスモデルにおいてDDX3X特異的T細胞高い抗腫瘍効果を持つことを明らかとした。現在、エピトープペプチドを解析するとともにDDX3Xのoncogenic roleについて解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
1.DDX3X蛋白質を用いた抗腫瘍免疫療法がin vivoで抗腫瘍効果を有することをマウスモデルを用いて証明した。CD4+ T細胞が主な抗腫瘍効果を担っていることを養子免疫療法を用いて証明し、治療モデルにおいても十分な有効性があることを示した。これらの内容は、ESMO、癌学会などで発表の上、現在論文投稿中である。2.小細胞肺癌患者末梢血を用いて、限局型SCLC患者ではDDX3X反応性T細胞が存在することを証明している。現在、候補ペプチドを合成の上、エピトープペプチド探索を行なっている。3.DDX3Xと癌幹細胞化の関係を調べるために、EGFR遺伝子変異を有する肺癌細胞であるPC9にDDX3X遺伝子を導入した強制発現細胞を作成した。これにより、DDX3X発現が癌幹細胞化を進めること、薬剤耐性化に寄与することなどを明らかしている。これらの内容は、ESMO、AACRなどの国際学会で発表した。
1. 小細胞肺癌患者末梢血を用いたDDX3Xエピトープペプチド探索を進め、これを用いた抗腫瘍ペプチドワクチン療法臨床試験の施行に向けた準備を進める。2.DDX3Xの癌細胞における機能を明らかにするために、DDX3X強制発現肺癌細胞を確立した。現在までに、DDX3X遺伝子導入により細胞内生存増殖シグナルに大幅な変化が生じることを証明している。EGFR遺伝子変異陽性肺癌にDDX3Xを発現させることにより、EGFRリン酸化が阻害されEGFR signal addictionが失われる。このように生存増殖シグナル変化したEGFR遺伝子変陽性肺癌細胞は、EGFR-TKIに完全な耐性を示した。また、通常抗癌剤であるパクリタキセルに対しても耐性化を示した。このようにしてDDX3X高発現細胞が抗癌剤や分子標的治療に高い耐性を持つことは、DDX3Xを標的とした免疫療法の高い有効性を支持するものであり、新たな治療戦略となりうるものと考えられる。3. DDX3XはRNA helicase活性を有する蛋白質であり、合成したRNA helicase inhibitorの抗腫瘍活性について検討を進めている。4. DDX3X強制発現癌細胞は抗アポトーシス蛋白であるBcl-xLを高発現することを証明した。DDX3X強制発現により癌幹細胞化した腫瘍細胞に対するBcl-xL阻害剤の効果を検討している。
1.MHC classI, II高速性DDX3Xエピトープペプチド探索を更に進めるため、細胞培養試薬、合成ペプチド、ELISAキット購入を行う。2.DDX3X強制発現細胞を用いた肺癌細胞の癌幹細胞化のメカニズムを探索する研究として、immunoblotting用試薬、realtime PCR用試薬、IHC試薬、遺伝子導入用試薬購入を行う。3.DDX3XはRNA helicase活性を持っており、このRNA helicase inhibitorを合成し抗腫瘍効果を明らかとする予定である。
すべて 2012
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