研究課題
染色体の欠失領域より、多くの癌抑制遺伝子が単離され、その機能が同定され、肺癌の診断や治療の向上を目指し、これらの癌抑制遺伝子異常の早期検出や機能修復に関する研究が行われてきている。最近、マイクロリボ核酸(マイクロRNA)が遺伝子の発現、翻訳を制御することが判明し、発癌過程において、癌関連遺伝子の発現制御することにより、重要な役割をはたすことが知られている。本研究において、応募者が以前より解析に従事してきた第3番色体の短腕の欠失領域やEMT・癌幹細胞に関連するマイクロRNAの肺癌発生過程における関与を明らかにすることにより、癌の診断や治療の向上を目指す研究である。肺癌で高頻度の欠失領域である第三染色体短腕(3p21.3領域)に存在するセマフォリン3F(SEMA3F)の遺伝子内に存在している miR-566の解析を行った。肺癌細胞株20例と臨床検体40例よりDNAを抽出して、プロモータ-領域およびマイクロRNAの塩基配列の検索をおこなった。既知の遺伝子多型を認めたがが、それ以外の塩基配列の変化を認めなかった。SEMA3FとmiR-566の発現のパターンを比較検討したが、多くの肺癌細胞株で発現の低下を認めたが、従来いわれているようにマイクロRNAが存在している遺伝子(SEMA3F)の発現と必ずしも一致していなかった。また、肺癌幹細胞特異的に発現するマイクロRNAを探究するため、肺癌細胞株を、成長因子を添加した無血清培地での足場非依存性培養によるsphere形成を行い、癌幹細胞性(stemness)を含む細胞分画の分離を行い、そこから抽出したRNAのマイクロアレイによるコントロール株との遺伝子発現の比較検討を行い、癌幹細胞と関連した複数のマイクロRNA(miR-205など)の発現の変化を認めた。
2: おおむね順調に進展している
細胞株の培養および臨床検体からのDNAの準備は完了している。第三番染色体の高頻度の欠失領域に存在し、変異・機能解析より候補癌抑制遺伝子とされているセマフォリン3B (SEMA3B)(Proc Natl Acad Sci U S A. 2001)の近傍にあるセマフォリン3F(SEMA3F)内のマイクロRNA(miR-566)の変異および発現の解析を開始した。シークエンスにより、一塩基多型以外の変異を認めなかったが、いくつかの細胞株で発現の低下を認めた。これの細胞株でこのマイクロRNAが腫瘍抑制的に作用している可能性が示唆さえた。今後、これらの細胞株を使用して、miR-566の機能解析が可能になると思われる。癌幹細胞に関与するマイクロRNAの解析として、sphere形成で培養すると発現が変化するマイクロRNAを見いだしており、今後は、これらが肺癌のstemnessに関与しているかを検討することが可能になった。
miR-566の発現が低下している細胞株に、遺伝子導入により、miR-566を過剰発現させて、腫瘍抑制効果を検討する。足場依存(dish)および足場非依存状態(soft agar)での細胞増殖の抑制効果、アポトーシスの促進効果(DNA断片化やカスパーゼ活性の測定)、細胞周期の停止(フローサイトメトリー)などの抗腫瘍効果を検討する。同時に、miR-566により発現が制御される候補遺伝子の発現の変化も検討する。さらに、それらの遺伝子のマイクロRNAの結合部位を含む5’領域を含むコンストラクトを作成して、ルシフェレースアッセイにてこのマイクロRNAの機能を検討する。治療標的としてマイクロRNAを検索するために、sphere培養で得られた肺癌幹細胞に関与するRNAの機能解析をおこなう。発現が低下しているマイクロRNAを肺癌細胞株に導入することにより、増殖抑制やアポトーシスが生じるか、sphereの形成が抑制されるかを検討する。また、マイクロRNAの発現の低下の機序として、DNAのメチル化等も検討する。
細胞株を用いてマイクロRNAの機能解析を行うために、細胞培養用試薬、マイクロRNAの合成、マイクロRNAや遺伝子の発現測定のためのリアルタイムPCR試薬、コンストラクト作成および遺伝子導入用の試薬が必要であり、研究費を使用する。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Cancer Sci.
巻: 102 ページ: 1493-500
10.1111/j.1349-7006.2011.01973.x