研究課題/領域番号 |
23591145
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
佐藤 光夫 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (70467281)
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研究分担者 |
近藤 征史 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00378077)
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キーワード | 国際情報交換 / 不死化正常気管支細胞 / 上皮間葉細胞転換 / p53 / KRAS / EGFR |
研究概要 |
本研究は、正常気管支上皮細胞発がんモデル(human bronchial epithelial cell,HBEC)を用い、ヒト肺癌で高頻度にみられる遺伝子異常が上皮間葉細胞転換(EMT)誘因に直接寄与するという仮説を検証する。EMTは上皮細胞から間葉系細胞への形態および分子レベルの劇的な動的変化であり、胎生期発生において重要な役割を果たす。EMTは癌の浸潤能・転移能にも大きく寄与する。EMT誘導因子としてはTGF-βなどの外的因子があるが、肺癌発癌過程において獲得されるp53異常などの遺伝子異常(内的因子)のEMTへの寄与については不明である。方法としては、EMTが誘導されたHBEC細胞の網羅的遺伝子・マイクロRNA発現解析により肺癌の治療標的となりうる分子を探索し、RNA干渉実験によりその治療応用性を検討する。 H24年度は、H23年度に引き続きHBEC細胞と異なるタイプの遺伝子異常を持つ肺癌細胞株を用い、TGF-βとEGFによるEMT誘導を試みた。 HBEC4と肺癌細胞株にTGF-βまたはEGFを添加し、EMTを評価した。TGFβにて、肺癌細胞株A,Bでは増殖抑制と、EMT様の変化を認めたが、HBEC4では増殖抑制を認めたのみで、EMT様形態変化を認めなかった。また、EGF添加では、肺癌細胞株CでEMT様の変化を認めたが、肺癌細胞株B、HBEC4では、形態変化を認めなかった。また、HBEC4+KRAS、HBEC4+KRAS+p53ノックダウンについても同様にTGFβとEGFを添加したがEMT様の形態変化を認めなかった。TGFβ、EGFを添加でEMT様の変化を認めた肺癌細胞株A,B,C,のcDNAを作成しmRNA levelでのE-cad、Vimentin、ZEB1、SIP1、Snail、Slug、TwistなどのEMT分子の発現を比較したが特異的な結果は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的達成のためには、正常気管支上皮細胞発がんモデル(HBEC)を用いたEMTモデルの作成が必要である。平成24年度は前年に引き続き、肺癌において高頻度に認められる遺伝子変異を導入したHBEC細胞にTGFβまたはEGFを添加しEMTモデル作成を試みた。また、コントロールとしてさまざまなタイプの遺伝子変異を持つ肺癌細胞株をコントロールとして使用した。結果としては、肺がん細胞に比べ、HBEC細胞はTGFβまたはEGF刺激によるEMT誘導に対して強い抵抗性を示したため、HBECのEMTモデル作成には至っていない。この問題の解決策としては以下を検討している。 ①HBEC細胞はこれまでに30以上の異なるドナーから作成されているが、細胞間で性質が異なることが報告されている(SatoらMolecular Cancer Research 2013 in press)。したがって、別のHBEC細胞がEMTに対する抵抗性が低い可能性を考え、別のドナーから樹立したHBECを用いる。 ②HBEC樹立の際に導入したhTERT、CDK4がEMT抵抗性に関与している可能性を検証する。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの達成度】で述べた様にHBEC細胞EMTモデル作成の問題解決を目指す。 <①別のドナーから樹立したHBECを用いる。>HBEC細胞樹立を行った共同研究施設であるテキサス大学よりさらに数種類のHBECの譲渡を受ける予定である。また、HBEC細胞樹立に必要なベクターをすでにテキサス大学より譲渡さているので、それらのベクターを用いて独自に日本人ドナーからのHBEC細胞樹立も試みる(学内倫理委員会承認済み)。 <②HBEC樹立の際に導入したhTERT、CDK4がEMT抵抗性に関与している可能性を検証する>hTERT、CDK4のいずれかがEMT抵抗性に寄与している可能性が判明した場合は、hTERT、CDK4以外の遺伝子による不死化気管支上皮細胞株樹立を試みる <③不死化末梢気道上皮細胞を用いての実験>EMT抵抗性が細胞起源の影響を受けている可能性がある。そのため、中枢気道から樹立したHBECに変えて、末梢気道から不死化細胞を樹立しEMTモデル作成に用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品として下記購入に使用する。 実験の概略は、(1)HBEC細胞、癌細胞にさまざまに種類のがん遺伝子導入、腫瘍抑制遺伝子ノックダウンベクターを導入。(2)さらにTGF-β、EGFなど各種増殖因子、サイトカインを加える。(3)EMTモデル確立成功したのち、網羅的発現解析を行う。である。そのために主として下記の消耗品購入とアレイ解析外部委託を行う。おもな使途を下記に示す ①がん遺伝子導入、腫瘍抑制遺伝子ノックダウンベクターを導入 トランスフェクション試薬、細胞培養試薬、増殖因子などの購入、発現およびノックダウンベクター、ノックダウンオリゴ ②マイクロアレイ実験 RNA調整試薬、マイクロアレイ解析外部受託
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