研究概要 |
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は,睡眠中の間歇的低酸素血症(IH),交感神経活動亢進,胸腔内・陰圧変動など明確な生理学的影響を与える疾患である.結果,全身炎症,過眠症,うつ状態,高血圧,動脈硬化,夜間頻尿などが生じる.これまでに以下を明らかにしてきた.(1)OSAS患者に交感神経活動亢進があり血漿ノルアドレナリンが上昇する症例が多い.齧歯類を用いた実験で慢性ノルアドレナリン上昇状態が中枢時計遺伝子(視交叉上核)には影響を及ぼさないが,海馬,大脳皮質などの末梢時計遺伝子の正常日内変動パターンを変調させ,いわゆる"時差ぼけ(時差症候群)"に近い状態となり過眠症,うつ状態に関係する可能性も想定される.(2)OSASは睡眠中にIHを生じる.培養細胞実験のIH状態で転写因子NF-κBシグナル経路が活性化され炎症性サイトカインIL-6 mRNA発現は亢進した.しかし,IH状態は時計遺伝子のPeriod1, Period2, Cry1, Rev-erbα, Clock mRNA発現に影響しなかった.血清IL-6濃度はIHを認めるOSAS患者群で上昇したが持続気道陽圧(CPAP)療法で低下した.IH状態は,これら時計遺伝子の発現に影響を与えないが IL-6産生に関与しOSAS患者の全身炎症の一因となる.平成23年度は,これらの知見を元に研究を継続した. ヒト時計遺伝子の発現を直接調べるため,肺手術患者の正常肺および腫瘍組織部におけるPeriod1, Period2, Clock, Bmal1のmRNAの発現をReal-time PCRで調べる方法を確立した.OSASを合併した患者との違いを明らかにできる可能性もあるため平成24年度もin vitroの実験を含めて検討していく予定である.
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