研究概要 |
本年度も時計遺伝子が構成する分子時計(概日時計)の機序と睡眠関連呼吸障害の代表的な疾患である閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の時計遺伝子に対する影響を検討した. ヒト末梢時計遺伝子,PERIOD1, PERIOD2, PERIOD3, BMAL1, CLOCKの生体におけるmRNA発現の日内変動を調べる手段として末梢血白血球からtotal RNAを抽出してmRNA発現を調べてきた.一方,齧歯類では肝臓,腎臓,肺などの臓器自体の時計遺伝子発現を直接調べて報告されている.OSASが生体の臓器における末梢時計遺伝子に分子生物学的影響を直接及ぼすかを調べるため,基礎検討として手術切除された臓器の切除時刻の違いによる末梢時計遺伝子のmRNA発現の日内変動を検討した.研究は鳥取大学医学部の倫理委員会の審査を受け患者からは文書による同意書を得た.対象者は肺疾患の手術を受けた15例である.切除された肺非癌組織からtotal RNAを抽出してReal-time PCR法でヒト末梢時計遺伝子,PERIOD1, PERIOD2, PERIOD3, BMAL1, CLOCKのmRNA発現を調べた.内部コントロールとしてbeta-ACTINを用いた.午前に切除した症例は6例,午後切除した症例は9例であった. 結果として,調べた各々の時計遺伝子mRNA発現には午前,午後の間に有意差を認めなかった.さらに切除時刻-mRNA発現量に有意の相関関係を認めなかった.例数が少ないこともあるが,麻酔など前処置の影響も大きいと考えられた.今回の準備的研究ではOSAS患者は含まれていないが,手術による切除肺組織を用いてのmRNA発現の日内変動解析は難しいと思われた.しかし,mRNA発現の日内変動以外で分子時計(概日時計)の分子生物学的機序解析には有用な可能性があると考えられた.
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