研究課題/領域番号 |
23591147
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
鰤岡 直人 鳥取大学, 医学部, 教授 (50252854)
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キーワード | 睡眠時無呼吸症候群 / 時計遺伝子 / 概日時計 / 分子時計 / 時計被制御遺伝子 / 気管支喘息 |
研究概要 |
本年度は,重要な臨床疾患に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を合併した状態を想定して分子生物学的影響を考えた.気管支喘息患者がOSASを合併すると症状が悪化し,持続気道陽圧装置で治療すると改善する臨床的現象が確認されている.従来,OSAS患者の閉塞性無呼吸による間歇的低酸素血症が酸化ストレスを生じたり,IL-6, TNF-alfaなどの炎症性サイトカインを誘導して全身性炎症を生じ気管支喘息の増悪させたり,胸腔内陰圧の急激な増減が逆流性食道炎を生じて喘息症状悪化に寄与していると推測されてきた.一方,時計遺伝子群への分子生物学的影響も気管支喘息増悪に関与する可能性がある. 複数の時計遺伝子の組み合わせによる転写・翻訳の周期が約24時間であり,この分子生物学的機序は分子時計(molecular clock)あるいは概日時計(circadian clock)と記述されることが多くなった.概日時計の仕組みは中枢も末梢も同じである.概日時計の下流で時計遺伝子によって直接発現制御を受ける遺伝子群は時計被制御遺伝子(Clock-controlled gene: Ccg)と呼ばれる.狭義にはCcg上流に特定塩基配列のE-box,D-box,ROREのいずれかが存在するため概日時計の影響を受ける.この仕組みによって各臓器の機能維持に“視交叉上核の中枢時計遺伝子による概日時計”- “末梢時計遺伝子による概日時計”-“Ccg”の連鎖が形成される.OSASのCcgへの影響が様々な悪影響を及ぼす可能性がある. これらを考慮してヒト気管支平滑筋に関与する遺伝子の中で上流にE-box,D-box,ROREのいずれかが存在する遺伝子をin silicoで複数同定した.分子生物学的影響が明らかになればOSASが概日時計システムの機能不全を介して気管支喘息の症状増悪に関与する傍証を初めて得ることができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.時計遺伝子と疾患に関して,新しい知見を総説,著書(分担)にまとめて報告した. 特に時計遺伝子群から構成される概日時計(分子時計)が,転写・翻訳を介して約24時間周期を規定する機序を概説した.概日時計に影響が及ぼされると疾患,合併症を生じる点も最新の情報を解説した(鰤岡直人他.時間医学と睡眠関連呼吸障害.Annual Review呼吸器2014,中外医学社,pp.127-133, 2014). 2.気管支喘息の病態は慢性気道炎症が主体であるが,気流制限は気管支平滑筋が関与する.気管支平滑筋がリモデリングを生じて不可逆に肥大すると治療抵抗性となり喘息の重症化に関与する.本年度は,ヒト気管支平滑筋に関与する遺伝子の中で上流に特定の塩基配列であるE-box,D-box,ROREのいずれかが存在する遺伝子をin silicoで複数同定した.閉塞性睡眠時無呼吸症候群による病態が,これらの遺伝子に影響を及ぼせば睡眠時無呼吸が時計遺伝子群から構成された概日時計(分子時計)を介して気管支喘息の症状増悪に関与する可能性を検討できる. 3.関連する技術を特許出願した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度,ヒト気管支平滑筋に関与する遺伝子の中で上流にE-box,D-box,ROREのいずれかが存在する遺伝子をin silicoで複数同定した.分子生物学的影響が明らかになれば閉塞性睡眠時無呼吸が時計遺伝子が構成する概日時計(分子時計)システムの機能不全を介して気管支喘息の症状増悪に関与する傍証を初めて得ることができる.今後, OSASが引き起こす間歇的低酸素状態や交感神経活動亢進によって,これらの遺伝子がどのような影響を受けるか解析予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
調査研究のための旅費は別予算で支出したため余剰が生じた.これは実験のための消耗品などに充当するためである.次年度に実験を遂行するために使用する. 実験に必要な消耗品,調査費,物品などに使用予定である.
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