研究課題/領域番号 |
23591148
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石川 暢久 広島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (90423368)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | KL-6 / SP-A / SP-D / 間質性肺炎 / バイオマーカー / 分子標的治療薬 / マイクロアレイ |
研究概要 |
申請者は現在までに,肺癌のゲノムワイドな遺伝子発現情報解析からバイオインフォマティックス解析,迅速血清診断システム,siRNAを用いた発現阻害実験などを駆使して効率的にスクリーニングする探索戦略を確立し,臨床応用が可能な新たな血清診断法の開発に至ることが可能であることを示してきた.本研究の目的は,完成度を高めた探索戦略をとることによって,間質性肺炎の新たな血清マーカーを開発すること,及びsiRNAを用いた間質性肺炎に対する新たな治療法を臨床応用するための基盤研究を行うことである. 本年度は特発性肺線維症7症例,NSIP 5症例,慢性過敏性肺炎 10症例の肺組織を用いてゲノムワイドな遺伝子発現情報解析を行ったが,特発性肺線維症とNSIPの発現プロファイルは非常に似通っていた.特発性間質性肺炎の発現プロファイルはcell cycle, ABC transpoters, p53 signaling pathwaysなどのパスウェイが関与していた.慢性過敏性肺炎の発現プロファイルでは,focal adhesion, ECM-receptor interaction, purine metabolism, complement and coagulation cascadesなどのパスウェイが関与していた.次に,間質性肺炎組織でコントロール肺組織と比較して,50%以上の症例で5倍以上の発現上昇を認め,なおかつバイオインフォマティックス解析でその局在が膜・分泌タンパクをコードすると予想され,血中に遊離されると考えられる分子を複数抽出した.同時に,血清診断マーカーの欧州人における有用性の検討を通じて,血清SP-A値には人種的な相違を認めないが,血清SP-D値ならびにKL-6値は日欧で人種的な相違を存在し,その原因として遺伝子多型が関与していることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は外科的肺生検で採取された間質性肺炎の肺組織を用いた網羅的発現解析プロファイルからの候補分子の抽出に予想以上に時間を要した.また,現在までに収集している多数の呼吸器疾患ならびにコントロール症例の血清中のKL-6, SP-A, SP-Dなどの既存のバイオマーカー値の測定し,収集した検体の妥当性について検討をした.同時に,間質性肺炎の病型,呼吸機能検査などの臨床病理学的因子をデーターベース化するのに時間を要した.来年度以降は,臨床診断を統一しさらに臨床情報がデーターベース化された日本人ならびに欧米人の多数の症例を用いた国際的な血清マーカーの開発を行いたい.以上のように,当初は平成23年度に予定していた候補分子に対する特異抗体を用いた組織免疫染色・Morphometry解析,迅速血清診断法の確立,血清マーカー発現機序の検討,細胞株におけるsiRNAを用いた発現阻害実験は年度内に達成することができなかった.平成24年度以降に研究体制を見直すことにより,当初の予定通りに研究成果を達成する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は候補分子に対する特異抗体を用いて,外科的に採取された間質性肺炎,COPD,コントロール症例の肺組織における発現レベルをMorphometry解析により検討する.次に候補分子に対する特異抗体を用いて,迅速血清診断法を確立する.具体的には,一次抗体としてはモノクローナルあるいはポリクローナル抗体,二次抗体としてはBiotin Labeling Kit(DOJINDO)によりビオチン化したモノクローナルあるいはポリクローナル抗体,標準曲線としては肺癌患者胸水を用いて,ELISA法で行う.間質性肺炎患者血清,健常人患者血清を用いて,一次抗体ならびに二次抗体の濃度に関する検討を行い,最も感度・特異度が高くなると思われる測定条件を設定する.その後,臨床情報がすでにデーターベース化された多数の呼吸器疾患ならびにコントロール症例の血清中のレベルを測定し,間質性肺炎の診断マーカーとしての有用性を検討する.Receiver operating characteristic (ROC)曲線を用いてカットオフ値を日欧で個別に設定する.血清マーカー値と間質性肺炎の病型,呼吸機能検査などの臨床病理学的意義について検討し,間質性肺炎の血清マーカーとしての有用性を検討する. 同時に,候補分子を標的としたsiRNAをヒトとマウスの相同性を考慮して,いくつかロットでAmbion社に依頼して作製し,線維芽細胞,肺癌細胞における発現阻害実験を行い,増殖を抑制することができるか否かを明らかにする.siRNAのノックダウンの確認はリアルタイムPCR,ウェスタンブロットで確認する.また,時間的に余裕があればブレオマイシン肺線維症モデルへのMUC1-siRNAの投与を行い,候補分子の治療への応用の可能性についても検討したいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究遂行に必要な設備は広島大学分子内科学教室ならびに広島大学ライフサイエンス機器室に概ね備わっているために,経費の主要な用途は消耗品である.来年度は,候補分子に対する特異抗体,血清マーカーの測定試薬,ゲノム関連試薬,siRNAの合成費用を購入する予定にしている.また,ブレオマイシン肺線維症モデルへのMUC1-siRNAの.投与を行う際には,動物投与試薬,動物維持費,細胞培養用試薬・器具などの購入が必要である.
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