研究課題/領域番号 |
23591148
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石川 暢久 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 講師 (90423368)
|
キーワード | 国際情報交換 / KL-6 / SP-A / SP-D / バイオマーカー / マイクロアレイ |
研究概要 |
申請者は現在までに,肺癌のゲノムワイドな遺伝子発現情報解析からバイオインフォマティックス解析,迅速血清診断システム,siRNAを用いた発現阻害実験などを駆使して効率的にスクリーニングする探索戦略を確立し,臨床応用が可能な新たな血清診断法の開発に至ることが可能であることを示してきた.本研究の目的は,完成度を高めた探索戦略をとることによって,間質性肺炎の新たな血清マーカーを開発すること,及びsiRNAを用いた間質性肺炎に対する新たな治療法を臨床応用するための基盤研究を行うことである. 平成24年度は外科的肺生検時に採取された肺組織を用いてゲノムワイドな遺伝子発現情報解析のデーターから間質性肺炎の新たな血清マーカーのスクリーニングを行った.具体的には発現レベルが健常人の肺と比較して変動している遺伝子の機能的分類をIngenuity Pathway Analysisを用いて解析し,特発性間質性肺炎の発現プロファイルはMolecular Mechanism of Cancer,PTEN signaling,Ephrin Receptor signalingなどのパスウェイが関与していることを明らかにした. 次にこれらのパスウェイに対する特異抗体を用いて,外科的に採取された間質性肺炎,COPD,コントロール症例の肺組織における発現レベルをMorphometry解析により検討した.また,バイオインフォマティックス解析でその局在が膜・分泌タンパクをコードすると予想され,血中に遊離されると考えられる分子に対して血清診断法の構築を試みた.具体的には,間質性肺炎患者血清,健常人患者血清を用いて,一次抗体ならびに二次抗体の濃度に関する検討を行い,最も感度・特異度が高くなると思われる測定条件を設定した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は現在までに収集している多数の日本人の呼吸器疾患ならびにコントロール症例の血清中のKL-6, SP-A, SP-Dなどの既存のバイオマーカー値の測定し,収集した検体の妥当性について検討をした.平成24年度は多数のドイツ人の呼吸器疾患ならびにコントロール症例についても同様の検討を行った.その結果,わが国において開発されたKL-6, SP-A, SP-Dはドイツ人においても日本人と同様に,間質性肺炎の診断に有用であることを明らかにした.ドイツ人と日本人における遺伝子多型の分布の違いにより,血清バイオマーカー値は日本人とドイツ人で異なるカットオフ値を設定する必要がある可能性が示唆された. 平成24年度は外科的肺生検で採取された間質性肺炎の肺組織を用いた網羅的発現解析プロファイルから抽出した候補分子のスクリーニングを行った.その結果,いくつかの有望な新規バイオマーカーならびに新規治療標的分子の候補分子を複数同定した.さらに,これらの分子に対する血清診断法の測定条件を設定することができた.平成25年度は臨床診断を統一し,さらに臨床情報がデーターベース化された日本人ならびに欧米人の多数の症例を用いた国際的な血清マーカーの開発を行いたい. 一方で,細胞株におけるsiRNAを用いた発現阻害実験は年度内に達成することができなかった.しかし,私たちが新規治療標的分子として抽出したいくつかの分子はそれぞれ既存の悪性腫瘍に対する分子標的治療薬により抑制されることが報告されている.そこで,平成25年度以降は分子標的治療薬を用いた基礎実験を行うことにより,当初の予定通りに研究成果を達成する予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は臨床情報がすでにデーターベース化された日本人ならびに欧州人の多数の呼吸器疾患ならびにコントロール症例における血清中の新規バイオマーカーのレベルを測定し,間質性肺炎の診断マーカーとしての有用性を検討する.Receiver operating characteristic (ROC)曲線を用いてカットオフ値を日欧で個別に設定する.血清マーカー値と間質性肺炎の病型,呼吸機能検査などの臨床病理学的意義について検討し,間質性肺炎の血清マーカーとしての有用性を検討する. 血清マーカーの遺伝子多型については,全血よりゲノムDNAを抽出し,リアルタイムPCR systemを用いて検討する.また,現在までに間質性肺炎との関連が報告されている遺伝子多型などについても検討をする. 血清マーカーのカットオフ値,血清レベルとその遺伝子多型,臨床病理学的因子の関連を検討すると同時に,間質性肺炎の病態ならびに人種的な相違を臨床像と分子レベルから解明する. 分子標的治療薬ならびに治療標的分子に特異的に作製したsiRNAによる線維芽細胞,肺癌細胞における発現阻害実験を行い,増殖を抑制することができるか否かを明らかにする.ブレオマイシン肺線維症モデルにおいて,上記の分子標的治療薬と治療標的分子に特異的に作製するsiRNAを経気管支的,経鼻的,経口的に投与することにより,病態の進行を抑制しうるかを検討する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究遂行に必要な設備は広島大学分子内科学教室ならびに広島大学ライフサイエンス機器室に概ね備わっているために,経費の主要な用途は消耗品である.来年度は,候補分子に対する特異抗体,血清マーカーの測定試薬,ゲノム関連試薬,siRNAの合成費用を購入する予定にしている.また,ブレオマイシン肺線維症モデルへのsiRNAの.投与を行う際には,動物投与試薬,動物維持費,細胞培養用試薬・器具などの購入が必要である.
|