研究課題/領域番号 |
23591150
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
浜田 直樹 九州大学, 大学病院, 助教 (00423567)
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研究分担者 |
前山 隆茂 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40380456)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 内科 / マイクロアレイ / 再生医学 / シグナル伝達 / 免疫学 |
研究概要 |
肺線維症は、肺胞上皮細胞の損傷とその正常な修復機構の破綻による線維化が病変の主体であると考えられており、今まで肺胞上皮細胞に着目した研究が進んできた。我々は、以前、マウスブレオマイシン肺臓炎モデルにおいて、HMGB1の免疫染色により、ブレオマイシン投与後初期には、肺胞上皮細胞ではなく、細気管支上皮細胞に、損傷が起き、その後肺胞上皮細胞に損傷が広がることを報告した。細気管支上皮細胞が肺胞上皮細胞の損傷治癒に重要な役割を担っていると考え、それを証明するために、動物モデルにて実験を開始した。 最初に、マウスにブレオマイシンを気管内投与後、マウスナフタレン肺損傷モデルを用いて、速やかに細気管支上皮細胞を脱落させ、細気管支上皮への損傷を一度リセットした効果を検討したが、肺臓炎・肺線維症には、大きな変化を認めなかった。次に、先にマウスにナフタレンを投与して細気管支上皮が存在しない状態を作成し、そこにブレオマイシンを投与した効果を検討した。すると、肺臓炎と線維化が著名に抑制されることを見出した。つまり細気管支上皮細胞が存在しない状況では、ブレオマイシンによる肺胞上皮細胞の損傷・線維化が進行しにくく、細気管支上皮細胞と肺胞上皮細胞間になんらかのクロストークがあることが示唆された。これは間質性肺炎・肺線維症において、細気管支上皮細胞が重要な役割を果たしていることを示す、初めての報告であり、病態解明に重要な知見であると考える。現在も解析中であるが、細気管支上皮細胞の存在しない群では、肺胞上皮細胞のアポトーシスの減少、IL-1βやHMGB1 等の炎症性物質の抑制が認められている。今後、他のサイトカイン、ケモカイン、線維化において重要な役割を持つと考えられているTGF-βなどに関しても、解析を進めていく方針である。更に、細気管支上皮細胞のマイクロアレイによる網羅的解析も予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウスにおいて、細気管支上皮が存在しない状態において、ブレオマイシン肺臓炎・線維化が著名に抑制されることを示し、細気管支上皮細胞と肺胞上皮細胞間になんらかのクロストークがあることを示した。現在、その仕組みの解明を目指し、各種サイトカイン、ケモカインを解析しているところであるが、H24年度に施行予定のレーザーキャプチャーマイクロダイセクション法にて細気管支上皮細胞を選択的に抽出し、マイクロアレイにて網羅的に解析することで、重要なターゲット物質が明らかになってくると考えている。当初の予定通り検討していく予定である。 また、同時に施行した、ブレオマイシンによって損傷したマウス細気管支上皮細胞を、ナフタレン投与によって脱落させてリセットすることにより、ブレオマイシン肺臓炎・肺線維症における効果を検討した実験系においては、マウスブレオマイシン肺臓炎は変化を認めなかった。ただ、線維化を来す時期に細気管支から肺胞上皮へ、線維化を進行させるシグナルが出される可能性もあるお考えており、細気管支上皮を脱落させる時期の再検討も含め、再検討していきたい。 また、H23年度に計画した「細気管支上皮細胞の前駆細胞がマウスブレオマイシン肺臓炎・肺線維症に及ぼす効果」に関しては、当初の計画通りの研究は進まなかった。予定では、細気管支上皮細胞の前駆細胞として最も注目されている、近年分離・抽出が施行できたと報告されたCD45negCD31negSca-1lowCD34neg細胞群を、フローサイトメトリーにより、マウス肺よりソーティング、抽出し、増殖させて、投与する予定であったが、抽出・増殖がうまくいかなかった。また代替として、マウスクララ細胞のcell line(C22細胞)を使用予定であったが、C22細胞は管理が難しく、マウス肺に投与できるほどの細胞増殖ができなかった。再検討する方針である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、マウスブレオマイシン肺臓炎・肺線維症モデルにおける細気管支上皮細胞の遺伝子発現の検討を行う。ブレオマイシン投与直後、投与後初期の炎症期、投与後後期の線維化期のそれぞれの時期において、RNAや蛋白の発現に違いがあることが予想され、その違いを解析することが線維化の原因解明に有用となると考えられる。よってブレオマイシンをマウスに経気管的に投与後、1日後、7日後、14日後の細気管支上皮細胞をレーザーキャプチャーマイクロダイセクションによって採取し、RNAの発現状況を、マイクロアレイ法にて網羅的解析する。その結果と、これまで報告されてきた間質性肺炎・肺線維症との関わりが深い物質や、先の我々の報告((Harada C et al. Am J Respir Crit Care Med 2010))との比較、解析を行い、ターゲトとなる物質を選びだす。 また、昨年度より研究実施計画通りに進行している、マウスブレオマイシンモデルにおける細気管支上皮の役割に関する検討に関しては、昨年度の研究により、細気管支上皮と肺胞上皮の間には,何らかのクロストークが存在し、その破綻が、肺損傷・線維化において重要な役割を来していることが明らかになってきた。今後、サイトカイン、ケモカイン、アポトーシスに関するシグナルに関して、解析を進めていく。 また、H25年度に計画している、in vitroの系「ヒト及びマウス細気管支上皮細胞(特にクララ細胞)に対するブレオマイシンの効果と線維化の検討」について、培養クララ細胞にブレオマイシンを投与し、線維化に関与すると考えられているTGF-βなどの各種サイトカインやケモカインを解析していく予定である。併せてクララ細胞に対するゲフィチニブの効果も検討し、急性肺損傷と線維化について検討していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の主たる使用先は、当初の研究実施計画通り、マウスブレオマイシン肺臓炎モデルにおける、細気管支上皮細胞のレーザーキャプチャーマイクロダイセクションによる採取、採取してきた細気管支上皮細胞からのtotal RNAの抽出、サンプルの品質チェックと濃度測定、サンプルの標識、ハイブリダイゼーション、マイクロアレイスキャンニング・データ解析に対してである。細気管支上皮細胞の採取は、我々で施行するが、その他のRNA処理に関しては、Filgen社にて施行頂き、結果は、Filgen社の解析ソフトを使用して、当施設で解析する予定である。同社は、先の我々の報告でも、細気管支上皮細胞のRNAの処理・解析を担当しており、予算も同等と考えている。これによって得られた結果に基づいて、ターゲトとなる物質を選びだし、改めて解析していくのに、研究費を使用予定である。 また、マウスブレオマイシンモデルにおける細気管支上皮の役割に関する検討に関しては、細気管支上皮と肺胞上皮の間には,何らかのクロストークが存在し、その破綻が、肺損傷・線維化において重要な役割を来していることが明らかになってきた。今後、サイトカイン、ケモカイン、アポトーシスに関するシグナルに関して、解析を進めていくのに研究費を使用予定である。 また、昨年度、計画通りに施行できなかった、細気管支上皮細胞の前駆細胞がマウスブレオマイシン肺臓炎・肺線維症に及ぼす効果に関しては、1) マウス肺からの細気管支上皮細胞の前駆細胞の分離・抽出。2) マウスクララ細胞のcell line(C22)を培養と増殖、の二点の問題がある。まず1)については、マウス肺よりのソーティング、抽出、増殖が難しいが、最近研究が進んでいる分野であり、再度検討したいと考えている。また2)に関しては、細胞は購入済みで有り、培地や条件を整えて再検討予定である。
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