研究課題/領域番号 |
23591150
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
浜田 直樹 九州大学, 大学病院, 助教 (00423567)
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研究分担者 |
前山 隆茂 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40380456)
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キーワード | 内科 / マイクロアレイ / 再生医学 / シグナル伝達 / 免疫学 |
研究概要 |
肺線維症は、肺胞上皮細胞の損傷とその正常な修復機構の破綻による線維化が病変の主体であると考えられており、これまで肺胞上皮細胞に着目した研究が進んできた。我々は、以前、マウスブレオマイシン(BLM)肺臓炎モデルにおいて、HMGB1の免疫染色により、ブレオマイシン投与後初期には、肺胞上皮細胞ではなく、細気管支上皮細胞に、損傷が起き、その後肺胞上皮細胞に損傷が広がることを報告した(Hamada N et al. Am J Respir Cell Mol Biol. 2008)。細気管支上皮細胞が肺胞上皮細胞の損傷治癒や線維化において、重要な役割を担っているのではないかと考え、動物モデルにて実験を開始した。 マウスにナフタレンを投与して細気管支上皮が存在しない状態を作成し、そこにBLMを投与した効果を検討した。すると、肺臓炎と線維化が著名に抑制されることを見出した。つまり細気管支上皮細胞が存在しない状況では、BLMによる肺胞上皮細胞の損傷・線維化が進行しにくいと考えられ、肺胞上皮細胞には当初は損傷が認められないことより、細気管支上皮細胞と肺胞上皮細胞間になんらかのクロストークがあることが示唆された。これは間質性肺炎・肺線維症において、細気管支上皮細胞が重要な役割を果たしていることを示す、初めての報告であり、病態解明に重要な知見であると考える。現在、そのメカニズムについて解析中であるが、細気管支上皮細胞の存在しない群では、肺胞上皮細胞のアポトーシスの減少、TGF-βの抑制、炎症性サイトカインの減少などの結果が認められている。また、同モデルにおけるマウス肺の細気管支上皮細胞を、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションにて選択的に採取し、マイクロアレイ法にて網羅的に解析をすすめているところである。また、マウスクララ細胞株を用いてin vitroの系でも解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウスにおいて、細気管支上皮が存在しない状態において、ブレオマイシン肺臓炎・線維化が著名に抑制されることを示した。間質性肺炎・肺線維化において、細気管支上皮細胞も重要な役割を担っていると考えられ、その仕組みの解明を目指し、各種サイトカイン、ケモカインを解析しているところである。また平成24年度は、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法にてマウス肺より細気管支上皮を選択的に採取し、マイクロアレイ法で各群間の発現遺伝子変動の網羅的解析を開始した。ナフタレンを前投与してクララ細胞を脱落させたマウスでは、ブレオマイシンを単独で投与した群と比較して、一部のサイトカイン、ケモカイン等の遺伝子発現が変化しており、現在、更に詳細に解析中である。この結果から重要なターゲット物質が明らかになってくると考えている。 また、同時に施行した、ブレオマイシンによって損傷したマウス細気管支上皮細胞を、ナフタレン投与によって脱落させてリセットすることにより、ブレオマイシン肺臓炎・肺線維症における効果を検討した実験系においては、マウスブレオマイシン肺臓炎は少なくとも抑制することができなかった。ただ、線維化を来す時期に細気管支から肺胞上皮へ、線維化を進行させるシグナルが出される可能性もあると考えており、細気管支上皮を脱落させる時期の再検討も含め、再検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法にてマウス肺より細気管支上皮を選択的に採取し、マイクロアレイ法で各群間の発現遺伝子の変動を網羅的に解析し、ターゲットとなる物質を選び出すことを、まず施行すべき課題と考えている。マイクロアレイの解析にてナフタレンを前投与してクララ細胞を脱落させたマウスでは、ブレオマイシンを単独で投与した群と比較して、一部のサイトカイン、ケモカイン等の遺伝子発現が変化していることが明らかになった。現在、間質性肺炎・肺線維症との関わりが深い物質や、先の我々の報告((Harada C et al. Am J Respir Crit Care Med 2010))との比較、解析を行っている。 また、我々はブレオマイシン投与直後の細気管支上皮細胞の損傷が、引き続いて起こる肺胞の線維化において重要であると考えているが、ブレオマイシン投与直後、投与後初期の炎症期、投与後後期の線維化期のそれぞれの時期において、RNAや蛋白の発現に違いがあることが予想され、その違いを解析することが線維化の原因解明に有用となると考えられる。よって異なる時期の細気管支上皮細胞もレーザーキャプチャーマイクロダイセクションによって採取し、各時期間の比較解析もしていきたいと考えている。 また、H25年度に計画している、in vitroの系「ヒト及びマウス細気管支上皮細胞(特にクララ細胞)に対するブレオマイシンの効果と線維化の検討」については、マウスクララ細胞株であるC22細胞にブレオマイシンを投与し、線維化に関与すると考えられているTGF-βなどの各種サイトカインやケモカインの解析を開始している。併せてクララ細胞に対するゲフィチニブの効果も検討し、急性肺損傷と線維化について検討していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の主たる使用先は、当初の研究実施計画通り、マウスブレオマイシン肺臓炎モデルにおける、細気管支上皮細胞のレーザーキャプチャーマイクロダイセクションによる採取、採取してきた細気管支上皮細胞のマイクロアレイによる網羅的解析である。先日結果が届き、一部のサイトカイン、ケモカイン等の遺伝子発現が変化していることが明らかになっているが、現在、更に詳細に解析中である。また、先の我々の報告(Harada C et al. Am J Respir Crit Care Med 2010)では、ゲフィチニブに急性肺損傷における細気管支上皮細胞の役割に関して、同じくマイクロアレイ法を用いて網羅的に解析しており、今回得られた結果と比較検討していく予定である。その結果に基づいて、ターゲトとなる物質を選びだし、改めて解析していくのに、研究費を使用予定である。 また、本研究費を用いた成果として、マウスブレオマイシンモデルにおいては、細気管支上皮と肺胞上皮の間には,何らかのクロストークが存在し、その破綻が、肺損傷・線維化において重要な役割を来していることが明らかになってきている。今後、サイトカイン、ケモカイン、アポトーシスに関するシグナルに関して、in vitroの系を使用した実験、解析を進めていくのに研究費を使用予定である。
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