研究課題
生体における血液ガスの恒常性は、高炭酸ガス換気応答(HCVR)と低酸素換気応答(HVR)の2つの呼吸調節系により調節されている。通常の平地環境下での健常人においては、呼吸調節系は約90%がHCVRにより、約10%がHVRにより制御されている。しかし、HCVRは高炭酸ガス環境下ではその感受性は鈍化しやすい、つまり、順応を起こしやすいため、呼吸器疾患に罹患した病的状況下ではHVRの果たす役割は増加する。つまり、低酸素血症や高炭酸ガス血症の病態下ではHVRの果たす役割は通常以上に大きくなるが、HVRの測定は低酸素負荷を伴うため容易には施行しえない。本研究では【研究1】として、健常者(20名)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者(16名)、睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者(11名)において、Dejoursが提唱したwithdrawal test(WT法)を用い、HVRの測定を施行した。さらに、COPD患者では、HVRと1年間の増悪との関連を、SAS患者では、HVRと睡眠呼吸障害との関連を検討した。健常者では40%(8/20)、COPDでは18.8%(3/16)、SASでは9.1%(1/11)で換気量の抑制が認められ、つまり、低酸素換気応答が正常パターンを示した。COPD患者16名中6名で増悪を認め、その内、3名で入院加療が必要であった。HVRと増悪・入院加療との関連を検討したが、両者ともに関連を認めなかった。SASでは、健常者、COPD患者に比較し、低酸素応答が失われる傾向を認めていたが、HVRとAHI、3%ODIとは関連を認めなかった。しかし、HVRが高いほど睡眠効率は良好であり、覚醒反応(arousal index)は低い傾向を認めた。【研究2】の動物実験としては、HVRおよびHCVRの加齢変化を検討するために、C57BL/6Jマウス(n=7)を継続飼育し、3ヶ月齢と12ヶ月齢時にHVRおよびHCVRを測定した。その結果、HVR、HCVRとも有意に12ヶ月齢で低下しており、C57BL/6Jマウスでは加齢により化学感受性が低下することが明らかになった。
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