研究課題/領域番号 |
23591170
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
桑野 剛一 久留米大学, 医学部, 教授 (60215118)
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研究分担者 |
木田 豊 久留米大学, 医学部, 講師 (30309752)
谷 健次 久留米大学, 医学部, 助教 (00614108)
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キーワード | 塩基性抗菌ペプチド / 抗菌活性 / 過酸化水素 / 膜透過性 / ヒドロキシラジカル |
研究概要 |
細菌感染症において、非特異的感染防御機構の一つとして塩基性抗菌ペプチドが重要であることは広く知られている。その特徴は、抗菌スペクトルが広く、また薬剤耐性菌にも抗菌活性を示すことにある。しかし、その抗菌作用機序は、膜透過性亢進の関与が考えられているが、完全に解明されていない。最近、β-ラクタム、キノロン薬剤等の抗菌剤による細菌細胞死の機序として、SOS反応、酸化反応由来のhydroxyl radical等の関与が示唆されている。そこで、本研究では、抗菌ペプチドの抗菌機構における活性酸素の関与について検討した。 これまで、抗菌ペプチドはグラム陰性である大腸菌に対して、その抗菌活性と膜透過性亢進がほぼ相関することを見出した。しかし、一部の抗菌ペプチド(KWW)は、膜透過性亢進を示さなかったが、過酸化水素の産生を誘導した。今年度、数種の抗菌ペプチドの抗菌機構について、標的細胞を黄色ブドウ球菌、マイコプラズマへ拡大して、さらなる解析を加えた。抗菌ペプチドは、黄色ブドウ球菌の膜透過性を亢進し、活性酸素(hydroxyl radical、8-OHdG)の産生を誘導した。ところが、大腸菌の膜透過性を亢進しないKWWは、黄色ブドウ球菌の膜透過性を亢進した。抗菌ペプチドと膜透過性には菌種特異性が存在することが明らかとなった。また、マイコプラズマにおいて、抗菌ペプチドは膜透過性を亢進しないが、活性酸素を誘導した。さらに、hydroxyl radicalの除去剤存在下に抗菌アッセイを行ったところ、大腸菌、マイコプラズマでは抗菌活性が阻害されたが、黄色ブドウ球菌では阻害を認めなかった。 以上より、抗菌ペプチドには、膜透過性亢進、およびhydroxyl radicalによる抗菌機構が存在し、菌種により抗菌活性の活性酸素依存度は異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度、抗菌活性機構の中でも、活性酸素による標的細胞の傷害機構の解析を重点的に行った。その成果として、活性酸素の中で安定的で検出が容易とされる過酸化水素の誘導の検出に加えて、酸化作用が強いhydroxyl radicalの検出をも行うことができた。また、hydroxyl radicalの酸化物である8-hydroxydeoxyguanosine (8-OHdG)の存在も確認した。これらの結果から、抗菌ペプチドによる活性酸素依存的な抗菌活性発現には、hydroxyl radicalの関与が強く示唆された。そこで、次に、hydroxyl radicalの除去剤(チオウレア、鉄キレート剤2.2'-bipyridyl)存在下に抗菌アッセイを行ったところ、大腸菌、マイコプラズマ等を標的細胞として、20~50%程度の抗菌活性の阻害を認めることができた。これらの結果から、抗菌ペプチドには、膜透過性亢進による抗菌機構に加え、活性酸素であるhydroxyl radicalによる抗菌機構が存在することが明らかとなった。一方、黄色ブドウ球菌では、抗菌ペプチド処理により、活性酸素が誘導されるにもかかわらず、hydroxyl radicalの除去剤による阻害を全く認めなかったことから、大腸菌とその誘導機構が異なることが示唆される。 以上より、抗菌ペプチドには新たなhydroxyl radical依存的な抗菌機構が存在することが明らかとなった。しかしながら、分子レベルでの抗菌機構の解析が不十部であった。即ち、ストレスで誘導されるSOS反応について、検討を実施する必要がある。さらに、そのは反応と関連するDNA修復タンパクhex, rad等についても解析が残った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果から、抗菌ペプチドの抗菌機構には膜透過性依存的、および活性酸素依存的な二つが存在することが明らかとなった。そして、抗菌ペプチドの配列により、活性酸素依存性抗菌機構のみを有する抗菌ペプチドと膜透過性依存性、および活性酸素依存性を同時に有する抗菌ペプチドが存在することは興味深い。 今後さらに、分子レベルでの抗菌機構の解析を進めたい。即ち、ストレスで誘導されるSOS反応について、検討を実施する。抗菌ペプチド処理細菌のrecA,lexAをmRNAレベルでRT-PCR等によって解析する。DNA修復タンパクhex, rad等についても同様に解析する。また、RecAの活性化ではATP加水分解が生じることから、リン酸モリブデン青色測定法でATPase 活性を測定する。このような解析から、抗菌ペプチド処理による細菌の細胞死誘導における活性酸素依存的抗菌機構が解明されることが期待できる。 活性酸素依存的抗菌機構においては、hydroxyl radicalが重要な役割を果たしていることから、hydroxyl radicalの発現制御の解明が重要な課題である。とりわけ、鉄の関与が重要であり、鉄濃度とhydroxyl radicalの発現についても検討したい。また、ラジカル補足型抗酸化物であるビタミンC,E等の抗菌活性への影響を調べたい。さらに、抗菌ペプチドがin vivoでどのように抗菌機構を発現するか検証することは非常に重要である。マウスを使った感染モデルで、活性酸素の発現を検証し、さらに活性酸素を効率良く誘導する方法を探索する予定である。その解明は、臨床の感染症治療の効率化において、大きく貢献するだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に抗菌ペプチド等の抗菌機構の中で、重要と考える活性酸素による抗菌機構の解析に取り組む計画を立てた。抗菌ペプチド等で標的細菌を処理後、hydroxyl radicalの誘導を検討したところ、その誘導レベルが予想より低く、その誘導条件等の解析に多くの時間を費やしたため、標的細胞内におけるhydroxyl radicalの機能を分子レベルで解析をする十分な時間を確保できなかったため、次年度(平成26年度)へ研究使用額の繰り越しが生じた。 平成26年度には、臨床への基礎研究の成果を還元させるため、in vivoでの活性酸素による抗菌機構の解明とその増強法を探索することを優先する。活性酸素依存的抗菌機構においては、hydroxyl radicalが重要な役割を果たしていることから、hydroxyl radicalの発現制御の解明が重要な課題である。とりわけ、鉄の関与が重要であり、鉄濃度とhydroxyl radicalの発現についても解析する。また、ラジカル補足型抗酸化物であるビタミンC,E等の抗菌活性への影響を調べる予定である。 その後、分子レベルでの抗菌機構の解析を推し進める。即ち、ストレスで誘導されるSOS反応について、検討をする。抗菌ペプチド処理細菌のrecA,lexAをmRNAレベルでRT-PCR等によって解析する。DNA修復タンパクhex, rad等についても同様に解析する。このような解析から、抗菌ペプチド処理による細菌の細胞死誘導における活性酸素依存的抗菌機構が解明されることが期待できる。
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