腎糸球体における、臓側上皮 (足)細胞と壁側上皮(壁)細胞の傷害は、慢性腎臓病進行に重要な役割を有する。本研究の目的は、足細胞傷害による壁細胞の変調作用機構と腎疾患進行における役割を明らかにする事である。近年、糸球体硬化とその再構築に関わる因子として壁細胞活性化といった概念が提唱されている。活性化壁細胞の特徴としては、細胞容積密度の増大、ボウマン嚢肥厚等があり、特異マーカーとしてCD44分子が活性化後期に発現するとされる。本研究では、足細胞傷害にともなう壁細胞活性化に関して、実験腎炎モデルの解析を進めてきている。当該年度においては、各々のモデルに関する解析をさらに深める事とした。モデルとして、1)FSGSモデルであるアドリアマイシン (ADR)モデル、2)可逆的足細胞傷害により蛋白尿をきたすリポポリサッカライド(LPS)モデル、3) 急速な足細胞傷害と再構築過程を観察する新規モデルとしてADRに低用量LPS投与を組み合わせたADR-LPSモデル、さらに、4) アルブミン過剰投与ネフローゼモデルを用いた。結果、アポトーシス、分裂期細胞死による足細胞傷害がより高度に観察されるADR-LPSモデルではADRモデルに比し、壁細胞腫大、偽半月体形成など壁細胞の形態変化が顕著にみられた。一方、免疫組織学の範囲では、活性化マーカーとされるCD44発現は、マーカーとしての感度は高いものの、足細胞傷害の段階的重症度を反映するのには最善ではない可能性が示唆された。そこで、足細胞傷害の重症度を反映する他のマーカー候補としてケモカイン受容体CXCR4を取り上げ、足細胞のSDF-1発現と共に解析する事とした。結果、壁細胞におけるCXCR4新規発現は、CD44に比し足細胞傷害を反映する指標としてより特異度が高い事が示唆された。今後、以上の解析を確立化し、糸球体腎疾患診断への応用の可能性を探索する。
|