研究課題/領域番号 |
23591179
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
上杉 憲子 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (70279264)
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研究分担者 |
長田 道夫 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10192238)
青葉 孝昭 日本歯科大学, 歯学部, 教授 (30028807)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 腎内血管構造 / 3次元構築 / 慢性腎臓病 / バーチャルスライド / 腎癌非癌部 |
研究概要 |
1)成果 腎臓血管/糸球体3次元構築の作成 慢性腎臓病(CKD)のない2症例とある2症例のパラフィン包埋腎癌非癌部の3mm四方の連続薄切標本約200枚を用い、バ-チャルスライドにて、腎内血管の再構築を試みた。弓状動脈、小葉間動脈、細動脈、輸入動脈、糸球体にかけ、明瞭な3次元構築像が得られた。画像は360度回転可能で、どの角度からも血管の構築が観察でき、分岐の角度や壁の状態、走行が明瞭となった。この2次元画像を用い、間質や糸球体病変、血管の詳細な病理所見の解析が可能であった。CKDがある症例はない症例に比べ、血管壁の不整や内腔狭窄があり、糸球体ごとに容積の差を認めた。CKDがある症例の糸球体では、輸出入動脈以外に複数の血管が糸球体に出入りし、糸球体外で複雑に吻合していた(vasculosis)。2)意義 腎臓弓状動脈から、小葉間動脈、輸出入動脈は、CKDの標的血管で、この構造異常の解析は早期CKDの病態の解明に重要である。このレベルの血管は通常のCTなどの画像では抽出が困難だが、実験的にはLermanらはブタ腎動脈にシリコンを注入後高解像度CTで撮影し小葉間動脈までは秀逸な3次元構築の作成に成功している。本研究では、組織を用い、初めて、糸球体を含めた腎皮質の各種の太さの動脈の3次元構築を得ることができた。またヒトの糸球体/輸出入動脈の3次元構築は、1993年にyamanakaらが糖尿病の電顕エポン包埋ブロックのセミシン切片を用いたものが唯一である。本研究では、簡単に手に入るバラフィン包埋ブロックを用い、高い質の3次元構築に成功し、連続する血管の構築も確認でき、血管障害と糸球体障害の1対1対応が可能となった。本研究は糸球体を含めたCKDの血管の構造の解明のための新しい視点での検討で、有用な方法であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)検体の収集:筑波大学では、腎癌は核出術が主体で、多くの腎癌非癌部を収集できないため、筑波大学の関連病院つくばメデカルセンターと日立総合病院の病理科泌尿器科に共同研究を依頼し、検体と臨床情報の採取に関して、倫理審査を申請した。前者では審査が通過し、検体や臨床情報の収集を開始、3か月で7検体の収集ができた。後者は倫理審査の結果待ちである。現在までに17例の症例が集まっている。検体の収集はほぼ順調である。2)3次元画像構築:本方法では、ゆがみのない組織標本を200枚連続で作成する必要がある。Leicaの自動薄切装置を使い、薄切の手技に習熟することにより、3次元の構築の使用にたる検体が作成できた。腎皮質では、血管内皮のマーカーCD34に陽性の細胞は多く、無数の傍尿細管毛細血管や糸球体が染色され、2次元画像では網の目状であった。しかし、これに血管平滑筋のマーカーのSMAを重染色し、SMAとCD34が同時に陽性となる部位を抽出することにより、動脈の分離抽出が可能となった。太い小葉間動脈、輸入輸出動脈にいたるまでの血管樹が構成された。さらに糸球体の血管網の描出も可能であった。これにはRATOC TRI-SRF2 ソフトの技術の高さと共同研究者青葉らの卓越した解析技術によるところが大きい。現在まで、4例(CKD有2,なし2)の構築を行い、他の症例でも画像解析が進行中である。3)2次元解析 腎癌非癌部の2次元画像では、血管や間質の形態計測を、バーチャルスライドの計測機能やMitani社 WinRoof画像解析ソフトを用い行った。当初の計画どおりである。
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今後の研究の推進方策 |
1)3次元構築:種々のCKDの状態にある症例を集め、3次元構築を行う。当初の計画では3年間に100症例を目標としたが、適切な検体が採取されれば、少ない症例数で十分と考える。2)得られた3次元構築に対しての画像解析を行う。3次元構築画像を実際に作成し、画像を観察することで、解析の項目やその方法が明らかになった。つまり、3次元構造画像では、血管分岐の角度、蛇行の状態、弓状動脈から分岐する小葉間動脈の本数と密度、糸球体の直径と容積、単位面積中の糸球体密度などの計測を行う。また、3次元画像の一断面からとりだした2次元画像により、血管の内膜/中膜比、硝子化、平滑筋の配列の状態の解析、糸球体ではメサンギウムや硬化などの糸球体病変の解析、間質では線維化や尿細管萎縮などを検討できる。この二つを組み合わせることで、血管の異常とそれに起因する糸球体や間質尿細管の解析が可能となる。3)3mm四方の検体では、明瞭な3次元画像構築が得られたが、皮質深部から皮質表層にいたるまで、血管の走行と糸球体の状態を判定するためには3mmでは不十分である。特に高血圧では皮質の部位により糸球体や血管障害と異なり、より広い範囲での連続性をもつ画像構築は重要である。最近開発された自動薄切装置は、大きな切片をひずみなく200枚以上の薄切を可能とした。共同研究者らの紹介で、この装置で薄切が可能である。大きな割面での解析を行い、皮質から髄質にいたる血管を検討する。4) 電顕に関しては、手術検体では、腎癌採取時の侵襲が大きく、qualityが悪く解析が難しいため、実施の有無について検討中である。5)当初の計画では購入予定であった高額機器であるミクロトームは筑波大学内にあり、借用が可能であり、購入しなかった。作成する標本数が予想より遙かに多く、当初の予算では足らないため、この予算は実験試薬に回すこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)免疫染色用の消耗品:スライド硝子、抗体類、色素、封入剤など:100万円2)バーチャルスライド取り込み用のハードデスク:20万円3)共同研究者の画像解析に対する謝金:50万円4)共同研究者との画像解析に関する検討や学会参加のための旅費:30万円
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