本研究では腎再生医療の確立を目標として腎幹細胞の増殖・分化における血管内皮の役割を検討している。最近我々が開発した尿細管再生のIn vitroモデルを利用して、3次元尿細管構造を効率よく誘導する因子やその情報伝達経路を明らかにするため、ヒト培養近位尿細管細胞を基底膜構成成分であるマトリゲル(IV型コラーゲン、laminin)とI型コラーゲンを混合したもので3次元培養し、In vivoに類似した環境を作成した。ここにHGFを添加すると管腔構造が誘導されることが判明し、電子顕微鏡レベルでも極性を持ったMicrovilliを有する尿細管様管腔構造であることが確認できた。これを臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)と共培養し、血管内皮由来因子の管腔形成能に対する影響を調べた結果、共培養により管腔形成が有意に促進されることが判明した。既知の血管内皮由来因子(VEGF、PDGF、bFGFなど)の添加では、その作用は再現できなかった。本年度は、血管内皮細胞との共培養の際に尿細管細胞でどのようなシグナルが活性化しているかを調べるため、プロテインアレイを用いて解析した。その結果、管腔構造を形成しつつある尿細管細胞内では、HGF受容体以外に複数のレセプターチロシンキナーゼ型受容体のリン酸化が確認された。このことは新規の尿細管管腔形成促進システムの存在を示唆していると考えられる。現在、それぞれの活性化(リン酸化)した受容体の発現をラット虚血・再灌流急性腎不全モデルの組織を用いて確認し、尿細管再生における役割について検討を進めている。
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