慢性腎臓病における内因性バゾヒビンファミリーの腎保護効果と臨床的意義に関する検討

2011 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 23591193
• 研究機関: 岡山大学
• 研究代表者: 前島 洋平 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (10343287)
• 研究期間 (年度): 2011-04-28 – 2014-03-31
• キーワード: 慢性腎臓病 / 血管新生 / 線維化 / 炎症

研究概要

慢性腎臓病（CKD）患者は本邦にて1,330万人超と推計され、CKDから末期腎不全に至り透析療法を施行される患者数は本邦にて年々増加し約29万人に至る。CKDは心血管系合併症危険因子でもあり進展制御法の開発が国家的課題である。慢性腎障害の進展過程にて糸球体硬化・尿細管間質病変（炎症細胞浸潤・線維化）が共通して観察される。 内因性血管新生抑制因子の一つであるVasohibin-1(VASH-1)は活発な血管新生時には発現が低下し、血管新生終息部位にて発現増加し、血管新生の終息／血管成熟に寄与すると考えられる。VASH-1のホモログVASH-2は、主として単核球等に由来するが、sprouting等の血管新生を促進する作用を持つ。本研究では、VASH-1ノックアウトマウスを用いて、糖尿病性腎症、尿細管間質障害等の腎疾患モデルを作成し、内因性VASH-1の腎保護機能と作用機序について検討した。野生型マウスに比してVASH-1へテロ欠損マウスでは、１型糖尿病に伴うアルブミン尿、糸球体肥大、メサンギウム基質増加等の増悪が観察され、腎皮質における繊維化促進因子TGF-beta1・ケモカインMCP-1発現の増加、VEGF発現の増加、angiopoietin-1/2比の低下が観察された。糸球体スリット膜密度の低下や、nephrin発現異常がVASH-1欠損群にて観察され，アルブミン尿増加との関連が示唆された。また、片側尿管結紮（UUO）モデルを用いた検討にて、野生型マウスに比してVASH-1へテロ欠損マウスでは、腎間質線維化、間質I・III型コラーゲン蓄積、間質単球浸潤、腎皮質でのTGF-beta1発現・MCP-1発現増加が観察された。ヒト腎生検組織を用いたVASH-1発現の免疫組織化学による検討を75例にて実施し，腎組織学的変化や臨床指標との関連について検討を行っている。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究にてVASH-1へテロ欠損マウスを用いた解析を実施しているが，糖尿病性腎症モデル、さらには片側尿管結紮モデルを作成し、野生型マウスとの比較検討が順調に進行している。腎組織学的指標、腎機能等に関する指標や、腎障害進展に関与する各種増殖因子，炎症性サイトカイン等、メカニズムに関する検討も進展しつつある。さらに、ヒト腎生検切片を用いたVASH-1発現の免疫組織化学による検討も順調に進展し、各種腎組織変化のみならず、臨床指標との関連性などについても検討を進行している。さらには、血中、尿中VASH-1濃度と腎組織におけるVASH-1発現との関連性についても合わせて検討を進めている。上記の様に、概ね研究計画に則って研究が進行している状況である。

今後の研究の推進方策

VASH-1欠損マウスを用いた糖尿病性腎症モデル、片側尿管結紮モデルの検討を継続し、内因性VASH-1による腎保護作用についてその分子メカニズムの解明を行う。 ヒト腎生検等を用いた検討についても継続的に実施し、実地臨床においてのVASH-1の腎バイオマーカーとしての有用性についても検討を行う。

次年度の研究費の使用計画

VASH-1欠損マウスを用いた糖尿病性腎症モデル、片側尿管結紮モデルの検討を継続し、内因性VASH-1による腎保護作用についてその分子メカニズムの解明を行う。培養メサンギウム細胞、線維芽細胞を用いた検討も合わせて実施する。また、VASH-2発現アデノウィルスベクター導入による外因性VASH-2による腎保護効果の有無についても上記実験モデルにて検討を加える。 ヒト腎生検等を用いた検討についても継続的に実施し、実地臨床においてのVASH-1の腎バイオマーカーとしての有用性についても検討を行う。　なお、研究の進行状況により、次年度使用額として9,134円を繰り越しているが、上記腎疾患モデル動物を用いた研究の遂行に使用を予定している。

研究成果

• [雑誌論文] Amelioration of renal alterations in obese type 2 diabetic mice by Vasohibin-1, a negative feedback regulator of angiogenesis (2011)
  • 著者名/発表者名: Saito D, Maeshima Y, Nasu T, Yamasaki H, Tanabe K, Sugiyama H, Sonoda H, Sato Y, Makino H
  • 雑誌名: Am J Physiol-Renal Physiol 巻: 300巻 ページ: F873-886
  • DOI: 10.1152/ajprenal.00503.2010
  • 査読あり
• [雑誌論文] Intermittent administration of a sustained-release prostacyclin analog ONO-1301 ameliorates renal alterations in a rat type 1 diabetes model (2011)
  • 著者名/発表者名: Yamasaki H, Maeshima Y, Nasu T, Saito D, Tanabe K, Hirokoshi-Kawahara K, Sugiyama H, Sakai Y, Makino H
  • 雑誌名: Prostag Leukotr Ess 巻: 84 ページ: 99-107
  • 査読あり
• [雑誌論文] Involvement of Runx3 in the basal transcriptional activation of the mouse angiotensin II type 1 receptor-associated protein gene (2011)
  • 著者名/発表者名: Matsuda M, Tamura K, Wakui H, Dejima T, Maeda A, Ohsawa M, Kanaoka T, Haku S, Azushima K, Yamasaki H, Saito D, Hirose T, Maeshima Y, Nagashima Y, Umemura S
  • 雑誌名: Physiol Genomics 巻: 43 ページ: 884-894
  • 査読あり
• [雑誌論文] Abnormalities of glycogenes in tonsillar lymphocytes in IgA nephropathy (2011)
  • 著者名/発表者名: Inoue T, Sugiyama H, Kitagawa M, Takiue K, Morinaga H, Kikumoto Y, Maeshima Y, Fukushima K, Nishizaki K, Akagi H, Hiki Y, Makino H
  • 雑誌名: Adv Otorhinolaryngol 巻: 72 ページ: 71-74
  • 査読あり
• [雑誌論文] High glucose increases metallothionein expression in renal proximal tubular epithelial cells (2011)
  • 著者名/発表者名: Ogawa D, Asanuma M, Miyazaki I, Tachibana H, Wada J, Sogawa N, Sugaya T, Kitamura S, Maeshima Y, Shikata K, Makino H
  • 雑誌名: Exp Diabetes Res 巻: 2011 ページ: 534872
  • 査読あり
• [雑誌論文] Serum high sensitivity troponin T is a significant biomarker of left ventricular diastolic dysfunction in subjects with non-diabetic chronic kidney disease (2011)
  • 著者名/発表者名: Kitagawa M, Sugiyama H, Morinaga H, Inoue T, Takiue K, Kikumoto Y, Uchida HA, Kitamura S, Maeshima Y, Toh N, Nakamura K, Itoh H, Makino H
  • 雑誌名: Nephron Extra 巻: 1 ページ: 166-177
  • 査読あり
• [雑誌論文] 慢性腎臓病患者の心血管イべントリスク管理におけるストロングスタチンの可能性 -自験例の提示を含めて (2011)
  • 著者名/発表者名: 前島洋平, 斎藤大輔, 槇野博史
  • 雑誌名: Therapeutic Research 巻: 32 ページ: 811-820
  • 査読あり
• [雑誌論文] CKDとその治療管理の歴史とガイドライン (2011)
  • 著者名/発表者名: 綿谷博雪, 前島洋平,槇野博史
  • 雑誌名: Medical Practice 巻: 28 ページ: 972-977
• [学会発表] 内因性血管新生抑制因子Vasohibin-1の片側尿管結紮モデルにおける腎間質 線維化抑制効果の検討 (2011)
  • 著者名/発表者名: 綿谷博雪, 前島洋平, 山崎浩子, 斎藤大輔, 木野村賢, 那須達世, 雛元紀和, 杉山 斉, 佐藤靖史, 園田 光, 槇野博史
  • 学会等名: 第54回日本腎臓学会学術総会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（横浜市）
  • 年月日: 2011年6月17日
• [学会発表] 内因性血管新生抑制因子Vasohibin-1の1型糖尿病モデルにおける腎症進展 抑制効果の検討 (2011)
  • 著者名/発表者名: 雛元紀和, 前島洋平, 斎藤大輔, 山崎浩子, 綿谷博雪, 杉山 斉, 園田 光, 佐藤靖史, 槇野博史
  • 学会等名: 第54回日本腎臓学会学術総会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（横浜市）
  • 年月日: 2011年6月17日
• [学会発表] 糖尿病性腎症の進展における炎症の関与と新規治療アプローチ (2011)
  • 著者名/発表者名: 前島洋平, 斎藤大輔, 山崎浩子, 酒井芳紀, 佐藤靖史, 槇野博史
  • 学会等名: 第54回日本腎臓学会学術総会(招待講演)
  • 発表場所: パシフィコ横浜（横浜市）
  • 年月日: 2011年6月16日
• [学会発表] 糖尿病性腎症における血管新生制御因子Vasohibin-1によるnephrin発現回復効果の基礎的検討 (2011)
  • 著者名/発表者名: 斎藤大輔, 前島洋平, 雛元紀和, 綿谷博雪, 山崎浩子, 木野村賢, 喜多村真治, 杉山 斉, 園田 光, 佐藤靖史, 槇野博史
  • 学会等名: 第54回日本腎臓学会学術総会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（横浜市）
  • 年月日: 2011年6月16日
• [学会発表] 腎疾患における血管新生制御因子Vasohibin-1の発現変化と機能解析 (2011)
  • 著者名/発表者名: 前島洋平, 雛元紀和, 綿谷博雪, 杉山 斉, 佐藤靖史, 槇野博史
  • 学会等名: 第54回日本腎臓学会学術総会(招待講演)
  • 発表場所: パシフィコ横浜（横浜市）
  • 年月日: 2011年6月15日
• [学会発表] 腎疾患患者における血管新生制御因子Vasohibin-1の発現変化とその臨床的意義についての検討 (2011)
  • 著者名/発表者名: 雛元紀和, 前島洋平, 斎藤大輔, 山崎浩子, 綿谷博雪, 杉山 斉, 鹿股直樹, 園田 光, 佐藤靖史, 槇野博史
  • 学会等名: 第54回日本腎臓学会学術総会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（横浜市）
  • 年月日: 2011年6月15日
• [学会発表] Accelerated tubulointerstitial alterations induced by unilateral ureteral obstruction in mice lacking Vasohibin-1 (2011)
  • 著者名/発表者名: Watatani H, Maeshima Y, Saito D, Yamasaki H, Kinomura M, Hinamoto N, Mizuhara K, Sugiyama H, Sonoda H, Sato Y, Makino H
  • 学会等名: World Congress of Nephrology (WCN) 2011
  • 発表場所: Vancouver Convention Center, Vancouver, Canada
  • 年月日: 2011.4.8-12
• [学会発表] Renal expression of Vasohibin-1, a novel endothelium-derived angiogenesis inhibitor, in patients with renal disorders (2011)
  • 著者名/発表者名: Hinamoto N, Maeshima Y, Saito D, Yamasaki H, Watatani H, Kinomura M, Kitamura S, Sugiyama H, Kanomata N, Sonoda H, Sato Y, Makino H
  • 学会等名: World Congress of Nephrology (WCN) 2011
  • 発表場所: Vancouver Convention Center, Vancouver, Canada
  • 年月日: 2011.4.8-12
• [学会発表] Exacerbated diabetic renal alterations in mice lacking Vasohibin-1 (2011)
  • 著者名/発表者名: Hinamoto N, Maeshima Y, Saito D, Yamasaki H, Watatani H, Ujike H, Sugiyama H, Sonoda H, Sato Y, Makino H
  • 学会等名: ASN Kidney Week 2011
  • 発表場所: Pennsylvania Convention Center, Philadelphia, PA, USA
  • 年月日: 2011.11.8-13
• [学会発表] Immunohistochemical analysis of Vasohibin-1 using renal biopsy specimens of patients with renal disorders (2011)
  • 著者名/発表者名: Hinamoto N, Maeshima Y, Saito D, Yamasaki H, Watatani H, Ujike H, Kitamura S, Sugiyama H, Kanomata N, Sonoda H, Sato Y, Makino H
  • 学会等名: ASN Kidney Week 2011
  • 発表場所: Pennsylvania Convention Center, Philadelphia, PA, USA
  • 年月日: 2011.11.8-13
• [学会発表] Accelerated tubulointerstitial alterations induced by unilateral ureteral obstruction in mice lacking Vasohibin-1 (2011)
  • 著者名/発表者名: Watatani H, Maeshima Y, Saito D, Yamasaki H, Kinomura M, Hinamoto N, Ujike H, Sugiyama H, Sonoda H, Sato Y, Makino H
  • 学会等名: ASN Kidney Week 2011
  • 発表場所: Pennsylvania Convention Center, Philadelphia, PA, USA
  • 年月日: 2011.11.8-13
• [図書] 腎疾患・透析最新の治療2011-2013 (2011)
  • 著者名/発表者名: 前島洋平, 槇野博史
  • 総ページ数: 454
  • 出版者: 南江堂