研究課題/領域番号 |
23591195
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大坪 俊夫 九州大学, 大学病院, 助教 (30423974)
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キーワード | 国際情報交換 USA |
研究概要 |
虚血性腎障害の急性虚血モデルに関しては、XOR+/+, XOR+/-マウスを用いて両側腎動脈を60分クランプ後、24時間再潅流を施行した。XOR+/+マウスでは、再潅流後の血清BUN, Cr値の有意な増加、組織学的に腎臓の皮髄境界を中心とした高度な腎障害を認めた。 高血圧性腎障害モデルであるL-NAME(NOS阻害薬)投与実験に関しては、血圧はXOR+/-マウスにおいて有意な上昇を認めたが、血清BUN, Cr値、腎組織障害の程度に関してはXOR+/+, XOR+/-マウス群間で明らかな差を認めなかった。 メタボリックシンドロームとの関係では、18か月齢の高齢XOR+/-マウスは、XOR+/+マウスに比べ有意な腹腔内脂肪の増加を伴う体重増加を認め、炎症・脂肪細胞分化に関与する遺伝子発現の亢進を認めた。4ヶ月齢のXOR+/-マウスは、体重、肝臓・腎臓などの組織重量に差を認めなかったが、精巣上体周囲白色脂肪組織(内臓脂肪)重量が有意に増加し、脂肪細胞周囲にマクロファージの集簇を伴う脂肪細胞の肥大を認め、脂質酸化物や過酸化水素産生が亢進していた。さらにXOR+/-マウスは、空腹時インスリン高値、ブドウ糖負荷試験で有意な血糖上昇を認めた。次に、炎症に関与する遺伝子発現に差を認めない、2ヶ月齢XOR+/+, XOR+/-マウスの脂肪組織より間質血管(SVF)細胞を準備し、脂肪細胞への分化誘導を行った。XOR+/-マウス由来のSVF細胞は、活性酸素の産生増加、脂肪の蓄積亢進、脂肪細胞分化に伴い発現が亢進するPPARγ, C/EBPα, FABP4 mRNAの有意な発現増加を認めた。以上の結果より、マウスにおいてXOR遺伝子発現の減少は、酸化ストレスの増大、脂肪細胞内脂質蓄積の増加を引き起こし、加齢とともにインスリン抵抗性を生じ、肥満を呈する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
急性腎障害モデルに関しては、以前は開腹後両側腎動脈をクランプし虚血モデルを作成していたが、この方法ではマウスへの侵襲が強く実験結果にばらつきが大きかった。そこで、背部よりのアプローチに変更することで、小さな切開にて腎動脈のクリップが可能となり実験結果のばらつきが減った。培養内皮細胞における検討に関しては、初代培養細胞を用いた実験を再度色々と検討したがうまくいかなかった。現在HUVEC細胞を用いて、虚血再酸素化に伴うXORとeNOSの関係を中心に検討を始めている。達成度としては、やや遅れている。 高血圧性腎障害モデルであるL-NAME(NOS阻害薬)投与に関しては、XOR+/+, XOR+/-の腎臓では明らかな差を認めなかった。予備実験において、大動脈の内皮依存性血管弛緩反応、大動脈平滑筋細胞の組織学的な変化を認めたので、サンプル数を増やして更なる検討を行った。しかし、動物個体間のばらつきが大きく両実験ともに結論に至らなかった。今後は、現在作成中のeNOS KOマウスとXOR KOマウスを掛け合わせたeNOS/XOR double KOマウス、並びにApoE KOマウスとXOR KOマウスを掛け合わせたApoE/XOR double KOマウスを用いて研究を継続する予定である。達成度としては、やや遅れている。 XOR・尿酸のメタボリックシンドロームとの関係では、XOR遺伝子改変動物を用いた高脂肪食投与実験、並びに加齢に伴う変化に関しては現在論文作成投稿準備中であり、おおむね予定通りに進んでいる。腎臓に関しては、脂肪負荷後10週ではXOR+/-マウスにおいてのみ尿細管細胞内に脂肪の蓄積を認めており、今後は脂肪負荷後の時間経過を観察し、尿細管細胞における脂肪沈着とXORの関係を明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
急性腎障害モデルに関しては、60分の腎虚血後24時間の再潅流を行うと、XOR+/+マウスがXOR+/-マウスよりも腎障害が顕著であった。本年度はこの機序を明らかにするために活性酸素、活性窒素、尿酸、eNOSなどの病態への関与を検討していく。またさらに現在作成中のXOR/eNOS double KOマウスを用いてXORとeNOSの関係を検討していく。In vitroの系では初代培養内皮細胞の系がうまくいかず、現在Human umbilical vein endothelial cell(HUVEC)細胞を用いて、虚血再酸素化に伴うXORの役割をeNOSとの関係を中心に検討を始めている。 高血圧性腎障害モデルであるL-NAME(NOS阻害薬)投与に関しては、現在作成中のeNOS KOマウスとXOR KOマウスを掛け合わせたeNOS/XOR double KOマウス、並びにApoE KOマウスとXOR KOマウスを掛け合わせたApoE/XOR double KOマウスを用いて研究を継続する予定である。 XOR・尿酸のメタボリックシンドロームとの関係では、1)XOR遺伝子発現低下の高脂肪食負荷モデルにおける脂肪肝への影響並びに2)XOR遺伝子発現低下の加齢に伴う肥満・メタボリックシンドロームへの関与に関して現在作成中の論文投稿を行う。また、XOR遺伝子発現低下に伴う肥満のメカニズムを明らかにするために、脂肪組織のマイクロアレイなどによりメカニズムの更なる検討を行っていく。また、腎臓に関しては、脂肪負荷後10週では、XOR+/-マウスにおいてのみ尿細管細胞内に脂肪の蓄積を認めており、今後は脂肪負荷後の時間経過を観察し、尿細管細胞における脂肪沈着とXORの関係を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
XOR・尿酸の虚血再潅流障害、メタボリックシンドロームとの関係に関して上記の方法にてさらなる研究を進めていくために、マウスの飼育費や培養細胞、抗体、免疫組織染色の試薬、real time RT-PCR, genotypingなどに使用するキットなどの消耗品に640,000円。 昨年度までの研究成果並びに本年度の研究結果を国内学会にて発表を行ったり、新たな最新の研究に関する知識を得るための旅費として200,000円. 現在作成中の論文の投稿するために、その他の成果投稿料や印刷費に200,000円の合計1,040,000円を使用予定。
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