研究課題/領域番号 |
23591198
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
石村 栄治 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20145775)
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研究分担者 |
梯 アンナ 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60382222)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | プロテオーム / 糖尿病性腎症 |
研究概要 |
糖尿病性腎症は我が国の新規血液透析導入疾患の第一位であり、糖尿病性腎症の進行抑制が急務である。そのためには、糖尿病糸球体に発現する蛋白質の同定が必要で、糸球体組織を用いたプロテオミクスが注目されている。我々はまず、自然発症2型糖尿病モデル(OLETF)ラットの糸球体を単離しプロテオミクスを行った。糸球体上皮細胞の細胞骨格の維持に関与するsorbin and SH3 domain containing 2(SORBS2)が糖尿病糸球体で高発現している事を解明したが、SORBS2が糖尿病性腎症と関連のある蛋白質とは断定できなかった。そこで次に、剖検症例のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腎組織を用いてプロテオミクスを行った。糖尿病性腎症群と非糖尿病群において発現が変動していた蛋白質は100個有り、糖尿病性腎症群で高率に発現し、細胞外基質増加に関与するnephronectinを同定した。更に合計93例の糖尿病患者剖検例(腎症有り45例、腎症無し48例)に対し免疫染色を行い、nephronectinの発現と糸球体硬化度の関連につき検討したところ、nephronectin陽性糸球体の割合と糸球体硬化度との間には有意な正の相関関係を認め(ρ=0.881, p<0.0001)、nephronectinは糖尿病性腎症に関わる新規蛋白質であることを示した。Nephronectinは糖尿病性腎症の進行に関わる蛋白質の一つである可能性が高いと考えられる。また糖尿病診療において、従来の微量アルブミン尿や蛋白尿は必ずしも糸球体変化を反映しておらず、問題となってきた。Nephronectinは新たなバイオマーカー候補治療のターゲットになる可能性も有しており、今後検討が必要である。現時点では約20名の糖尿病患者に関して血中及び尿中nephronectin濃度測定を行っており、データの集積中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテオミクスの対象とした糖尿病性腎症剖検例10例以外にも、合計93例の糖尿病患者剖検例(腎症有り45例、腎症無し48例)に対し免疫染色を行いnephronectin陽性糸球体の割合と糸球体硬化度との間には有意な正の相関関係(ρ=0.881, p<0.0001)があることを証明できた。一方、本研究で同定された100個の蛋白質の内、nephronectin以外にも免役染色を施行したが、現時点ではnephronectin程、糖尿病性腎症の進行と関連のある蛋白質は同定されていない。バイオマーカーとしての有用性の検討に関しては現在症例を蓄積中である。またOLETFラットの腎組織を用いた研究にも同時進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
本院で腎生検が施行された180例(2010,2011年)と、10例の糖尿病性腎症(2005年~2009年)の合計190例に対して、糸球体でのnephronectinの免役染色を行う。イメージアナライザーを用いて、nephronectin陽性面積の割合を客観的に算出し、nephronectinが糖尿病性腎症の糸球体で特異的に発現しているかを検討する。さらに、プロテオミクスでは剖検症例を用いたため各臨床パラメーターとの相関を調べることは困難であったが、この腎生検例を用いた解析では、事前に血液・尿検査を施行しており、それらのデータを用いて、nephronectinの発現と臨床パラメーターとの相関を調べる。また、糖尿病患者におけるnephronectinの血中・尿中濃度の測定やOLETFラットを用いた研究も随時平行して行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記190例に対して免役染色を行うためのnephronectin抗体が必要である。また、nephronectin ELISA キットを購入し、糖尿病患者の血中および尿中nephronectin濃度を測定する。測定感度は低い場合は、四重極型質量分析計を用いて、濃度測定を行う事も代替案として計画している。これらの結果を第55回日本腎臓学会学術総会(横浜)ならびに、ASN(American society of nephrology, サンディエゴ)に参加し発表する予定である。
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