従来からの検討で、長時間尿細管を灌流することは困難であることが判明していたため、Wangらの報告を参考にして、マウスから摘出して単離した尿細管の束を10%ウシ仔血清+DMEM溶液に入れて、一晩インキュベーションした後に尿細管灌流実験を行った。しかし、複数回この実験を行ったが、尿細管の単離が極めて困難であり、実験の再現性が非常に低かったため継続を断念した。そこで、再度長時間尿細管灌流実験に取り組んだ。3時間位までは細いヘンレの上行脚(以下、ATL)の経上皮電位は保たれたが、これ以上時間が経過すると徐々に電位が低下してしまうことを繰り返し、制限された時間内に確立させる見込みが低かったため、ATLにおけるNaCl輸送にEGFが及ぼす影響に関する検討を中断した。そこで、新たにインスリンやインスリン様成長因子-1(以下、IGF-1)がATLにおけるNaCl輸送に影響を及ぼすか否かを検討した。プロトコルは、30分間尿細管を灌流後に10-6Mのインスリンを血管側に添加して30分後にwashoutを行い、この間の経上皮電位を継時的に測定した。その結果、インスリン投与前の経上皮電位は14.5±0.4 mVで、インスリン投与30分後は14.2±0.8 mVであった。インスリン投与前後の経上皮電位は統計学的有意差がなく、今回の検討ではインスリンはATLにおけるNaCl輸送に影響を及ぼさないことが分かった。IGF-1に関しては、1回のみの検討であったが、インスリンと同じプロトコルで血管側に5×10-10Mを添加した際に経上皮電位は添加前15.1 mV、添加後14.9 mVであり、少なくとも生理学的濃度ではNaCl輸送に影響を及ぼさない可能性が示唆された。
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