研究課題/領域番号 |
23591221
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
石上 友章 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (50264651)
|
キーワード | 食塩感受性 / 高血圧 / ナトリウムチャンネル / Nedd4L / ENaC / レニン / アンジオテンシノーゲン |
研究概要 |
遠位尿細管のENaC-Nedd4L系によるナトリウム再吸収機構による、体液の恒常性の維持と、その破たんによる食塩感受性高血圧の発症メカニズムを明らかにする目的で、下記のごとく、in vivoの実験を行った。従来から行ってきた我々の研究成果に基づいた、C57Bl6/Jマウスを用いた実験では、通常ケージ飼育下に①正常食塩群、②高食塩群の二群による食餌性のナトリウム摂取に介入を行い、更に高食塩群に対して、①無治療群、②アンジオテンシン変換酵素阻害薬投与群、③アンジオテンシンII受容体拮抗薬投与群、④選択的アルドステロン拮抗薬投与群の合計5群に分けて検討した。検討項目は、血中アルドステロン、レニン値、尿中ナトリウム排泄量、腎臓における上皮性ナトリウムチャネル(ENaC), レニン(傍糸球体装置、結合尿細管)、鉱質コルチコイド受容体、sgk1の発現と制御を、レーザーマイクロダイセクション法・定量的PCR法、ウェスタンブロッティング法、半定量的免疫組織染色法により評価・検討した。また、新規に発見したマウスNedd4Lエクソン2のノックアウトマウスを作製し、代謝ケージ飼育下に、正常食塩食、高食塩食で飼育し、表現型を解析し、食塩感受性におけるNedd4L C2タンパクの役割を検討した。以上の研究の成果は、国内では、日本高血圧学会、分子腎臓フォーラム、国際心臓研究学会日本支部(2012 Featured Research Session)で発表し、海外では欧州高血圧学会(2010ノルウェー)、国際アルドステロンシンポジウム(2011米国)で発表するとともに、Nephron Experimental Nephrology 2013に受理された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食塩感受性高血圧症の成因の腎性機序をもたらす中核的なシステムとしての、ENaC-Nedd4L系の役割について、食塩感受性モデル動物であるC57Bl6/Jマウスを用いた実験および、遺伝子改変動物であるNedd4L C2ノックアウトマウスを用いた実験を計画し、それぞれにおいて、分子生物学的解析のみならず、代謝ケージを用いた解析および、内分泌学的解析や、植え込み型telemetry装置を用いた正確・詳細な表現型の解析を計画し、それぞれ実現している。その結果高い確度をもって、尿細管ナトリウム再吸収機構の破たんと食餌性ナトリウムに対する応答性の異常によって、食塩感受性高血圧症が発症することを証明することができた。分子生物学的な手法としては、細胞膜タンパクの抽出と、ENaC各isoform(α~γ)個々に対する抗体によるアッセイならびに、laser-microdissection法による尿細管サンプルの採取と、定量的解析、デジタル顕微鏡を用いた免疫組織標本の半定量的解析法を確立することができた結果、概念として、『食塩感受性の腎尿細管性機序』の確立だけにとどまらず、具体的な分子の詳細な働きに至るまで解析し、整合性のあるデータに基づいた明解な結果を得ることができたので、今後本研究の究極の目標である実地臨床におけるtranslation(診断、治療への応用)へ向けて、確信をもって研究を遂行することができる体制を構築することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、モデル動物および遺伝子改変動物を用いて、食塩感受性の腎尿細管機序を分子レベルで明らかにして、その成果を臨床医学にトランスレーションすることを目標にしている。研究成果の統合と分析を反復することで、より確度の高い病態についての理解を得ることができたと言える。今後は、これまでの本研究課題の中核的な概念である、ENaC-Nedd4L系によるtubular sodium handlingに加えて、尿細管レニン・アンジオテンシン系によるナトリウム・体液恒常性維持の制御機構の詳細をさらに明らかにすることを計画している。尿細管レニン・アンジオテンシン系については、主任研究者が米国滞在中に、Utah大学のJ.M.Lalouel等と近位尿細管におけるアンジオテンシノーゲンおよび、結合尿細管におけるレニンの発現と制御について検討を行い、初期の概念について明らかにしている。この尿細管レニン・アンジオテンシン系と、ENaC-Nedd4L系による、いわば尿細管内分泌系を構成する分子の働きによるナトリウム・体液の恒常性の維持メカニズムと、その破たんよる食塩感受性高血圧の成因をより詳細に明らかにすることを計画している。 またノックアウトマウスの解析により、ナトリウム再吸収異常とともに、尿濃縮能の異常が認められた。Nedd4Lが、集合管において水代謝を制御している可能性を示唆する所見であり、新たなユビキチン化標的チャネルについて追及することを計画している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究最終年度の研究費については、論文作成費用(英文校正、投稿費用、掲載費用)に使用する予定であるが、研究の進捗が一段階進めることができた結果、さらなる研究の発展を目指すために、今年度の研究費を計画的に繰り越しています。具体的には、Nedd4L C2ドメインノックアウトマウスを用いたこれまでの研究では、尿細管に一度限外濾過されたナトリウムのごく一部(約2%~)を再吸収する結合尿細管から皮質集合管に至る上皮性ナトリウムチャンネルを主要なイオントランスポーターとする限られた部位の分子メカニズムが、食餌性に摂取されたナトリウムの出納を決定的に制御し、その破綻が高血圧をもたらすというセオリーの証明に迫ることができました。これに加えて尿細管レニン・アンジオテンシン系とENaC-Nedd4L系による高血圧症の発症メカニズムを解明する試みは、尿細管腔に独立して存在する恒常性維持機構を明らかにするに至っている。平成24年度は、こうしたシステムを維持する個々の分子(プレーヤー)の役割を明らかにする道筋をつける過程であり、その過程でこの仮説的なシステムに重大な役割を果たしていると考えられる分子を発見することができた。現在個々の実験の解析から統合へむけた実験を計画しており、平成25年度には新規遺伝子改変動物の作製を計画しており(すでに腎尿細管特異的発現ベクターを、テキサス大学 Prof. IGARASHIより入手している)、トランスジェニックマウスを作製するためのマウスアンジオテンシノーゲン遺伝子、マウスNPC2遺伝子のクローニングを予定している。トランスジェニックマウス作製には、初期費用ほか約100万円必要であり、今年度に繰り越した費用を充当する計画であります。
|