研究課題/領域番号 |
23591222
|
研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
重松 隆 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (30187348)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | リン / FGF-23 / 骨 / リン吸着剤 |
研究概要 |
本研究はリンのセンシングシステムまたはリンセンサー分子の探索を目的としている。高リン血症を惹起するため、ネフロン量減少による慢性腎臓病(CKD)ラットモデル動物にリン負荷を行い、リンセンシングシステムがいずれかの臓器に存在するかを、リン感受性分子としてのFGF-23遺伝子発現をNorthan blottingと定量的RT-PCRにて増幅後発現の多寡を指標として検討した。この結果、リン負荷により骨組織としての頭蓋骨並びに脛骨並びに脾臓にてFGF-23遺伝子発現が増加していた。骨組織では骨細胞並びに骨芽細胞にてFGF-23産生が指摘されているため、CKDラットとコントロールラットにて骨組織の器官培養系を用いた。具体的には頭蓋骨を左半と右半に分けて器官培養を行い、左半培養液中にリン添加実験を行い、以下の結果を得た。1)腎臓病ラット由来頭蓋骨では培養液中のFGF-23濃度は高値で、リン負荷に対する感受性が亢進していた。2)しかし予想に反し、リン負荷の有無によってFGF-23遺伝子発現の増強は認められなかった。3)このため、骨組織に対するリン負荷の効果はFGF-23産生より細胞外への遊離促進が中心効果と考えられた。 ヒトで同様の現象の有無を、高度腎機能障害症例である維持血液透析患者にて、非カルシウム系の純粋リン吸着剤である炭酸ランタンの経口投与にて検討した。研究名称としてはCombination Therapy of Lanthanum Carbonate and Calcium Carbonate:COLC Studyと呼称し、倫理委員会の承認下に各症例の書面による協力同意の元で行われた。この結果、血清カルシウム値やPTHレベルの変動なしに、血清リン濃度を低下させることに成功した。このリン負荷の軽減により、ヒトにおいても血中FGF-23値が低下することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、長期的にはリンのセンシングシステムまたはリンセンサー分子の探索を行い、リン感受性機構を明らかにする事を目的としている。リンに対するセンサーもしくは感受性システムは、ヒトにおけるリン過剰ないしリン負荷状況による生命予後の悪化や血管障害としての血管石灰化、副甲状腺に対する刺激効果やビタミンD代謝抑制等から、その存在は間違いないと考えられる。しかし、いかなる臓器や細胞などがこのシステムを有しているかは今もって明らかではない。この疑問を解決する為、リンに対するセンサーもしくは感受性システムは、血管・骨・腎臓・副甲状腺・脾臓ないしリンパ球のいずれかの臓器かその構成細胞に存在すると仮定し、更にFGF-23・ビタミンD活性化酵素・PTH・Clotho遺伝子がリン感受性を有する分子と仮定して研究を進めている。 現在までにFGF-23遺伝子発現を指標として、骨組織と脾臓にてリン感受性機構が存在することを慢性腎臓病(CKD)モデルラットにて明らかにした。同様のFGF-23を指標としたリン感受性機構は、同様の腎障害を有するヒトでも確認されている。さらにこのリン感受性は血管組織にも存在する可能性を見いだしている。 これまで骨組織を中心としたリン感受性機構を検討し、副甲状腺ホルモンやカルシウムとは独立した調節機構であることを明らかにしている。ただし、このリン感受性機構は活性型ビタミンD受容体の刺激が大きくその調節機構に関わっていることを明らかにした。 現在、このリン感受性機構の活性型ビタミンD受容体刺激とその調節機構についての検討を開始した。また脾臓にてのリン感受性機構が、骨組織と同様または異なるのかという検討も開始予定であり、脾臓中のいかなる構成細胞がリンに対し感受性を有しているかの検討も開始予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
1)リン感受性を示す臓器のうち、骨・血管・脾臓を対象として、リンに対する標的分子の同定と調節機構を明らかにする。(1)骨組織にて、活性型ビタミンD受容体刺激によるリン負荷誘導性の生体反応をFGF-23遺伝子発現を指標として解析する。CKDラットにて頭蓋骨の器官培養を行い、右半を対照として、左半培養液中にリン添加と活性型ビタミンD受容体に対する種々の親和性を有する活性型ビタミンDアナログ添加実験を行う。(2)リン負荷にて誘導される血管石灰化:特に中膜の石灰化モデルをin vivoモデルで確立し、リン感受性分子と反応を解析する。Katsumata Kらの方法[Kidney Int. 2003 Aug;64(2):441-50.]に準じてアデニン食にて飼育したラットの大動脈を抽出し、Von Kossa染色・およびアリザニンRed染色による石灰化染色を行い血管石灰化を同定する。アデニン含有量を0.5%・1.0%・1.5%にて、4週・6週・8週・10週の期間各々飼育し血管石灰化検出力が強い実験条件を決定する。(3)脾臓にてリン負荷により誘導されるFGF-23発現亢進が、脾臓内のいかなる細胞(T cell, B cell, 樹状細胞など)が示しているかを同定する。慢性腎臓病(CKD)モデルラットにリン負荷を行い、免疫担当細胞を各種マーカーとFACSを用いて分画し、リン感受性をFGF-23遺伝子発現を指標として解析する。2)リン負荷によって、骨組織ではリン感受性分子であるFGF-23遺伝子は発現亢進でせず、FGF-23の細胞外遊離促進という予想外の可能性が明らかとなった。このため平成23年度当初予算にて、遺伝子発現調節機構解明の費用使用が一旦中断した。このため当初予算とは異なり、今後はFGF-23の細胞外遊離促進機構の解明に予算を振り分け研究する予定とした。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1)リン感受性を示す臓器のうち、骨・血管・脾臓を対象として、リンに対する標的分子の同定と調節機構を明らかにする。(1)骨組織にて、活性型ビタミンD受容体刺激によるリン負荷誘導性の生体反応をFGF-23遺伝子発現を指標として解析する。(2)リン負荷にて誘導される血管石灰化:特に中膜の石灰化モデルをin vivoモデルで確立し、リン感受性分子と反応を解析する。(3)脾臓にてリン負荷により誘導されるFGF-23発現亢進が、脾臓内のいかなる細胞(T cell, B cell, 樹状細胞など)が示しているかを同定する。2)リン負荷によって、骨組織ではリン感受性分子であるFGF-23遺伝子は発現亢進せず、FGF-23の細胞外遊離促進という予想外の可能性が明らかとなった。このため当初予算とは異なり、上記の今後の研究推進方策に加えて、FGF-23の細胞外遊離促進機構の解明に予算を振り分け研究する予定とした。研究方法としては腎機能正常ラットと慢性腎臓病(CKD)より摘出した頭蓋骨の器官培養を行う。培養液中のリン濃度を同一個体由来の頭蓋骨の右半では0.9mMとし、左半では3.8mMとして48時間器官培する。その後、FGF-23の遺伝子発現をRT-PCRを用いて定量的に解析するとともに、培養液中へのFGF-23濃度を測定する。この細胞外の培養液中へのFGF-3遊離がゴルジ体も関与するか否かを、小胞体からゴルジ体へのタンパク質の移動をエンドサイトーシスやリゾソーム機能に影響を及ぼさずに特異的かつ可逆的に抑制するBrefeldin Aを、頭蓋骨器官培養系に添加することに対する反応性で検討する。
|