研究課題/領域番号 |
23591225
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
篠村 裕之 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (00235293)
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研究分担者 |
伊藤 裕 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (40252457)
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キーワード | 高血圧 / 塩分 |
研究概要 |
高血圧自然発症ラット(SHR)(n=30)を5群に分け、コントロールを除く群では同様に6週齢から14週齢まで一過性に、低食塩食(0.12%NaCl)、高NaCl食(7%NaCl)、高NaAA食(12.7%NaAA)、また高NaCl食と同等のCl負荷となる高Cl/アミノ酸(AACl)食(11.6%AACl)を与えた後、正常食に戻し、その後約3か月間血圧や尿蛋白の変動を経過観察した。高NaCl群は、血圧が300 mmHg前まで上昇し、正常食に戻したあとも他群に比べ有意に血圧上昇を認めた。高NaAA群、AACl群とも投与中、投与後ともコントロール群とほぼ同様な血圧上昇を示したが、高NaCl群に比して明らかに低値であった。(コントロール群245±3、高NaCl群285±2、高NaAA群245±3、高AACl 群247±5、低食塩食群243±3 mmHg)24時間尿蛋白量は、高NaCl群では投与中・投与終了後ともに高値を示し、腎臓の細動脈肥厚も認めた。また、Dahl食塩ラットと同様、血漿レニン活性、アルドステロン濃度ともに高NaCl群が高値の傾向を示した(コントロール4.1±0.7、高NaCl群5.1±1.1、高NaAA群3.4±0.3、高AACl群3.5±0.6、低食塩食群3.2±0.5 ng/ml/h)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高血圧の発症には遺伝素因と環境因子が関与していることが示されている。環境因子の中でも特に塩分摂取が高血圧の発症に関連することが知られている。しかし、塩分と高血圧、高血圧性臓器障害発症との関連についてはいまだ不明な点が多く、特に、高血圧発症早期における塩分摂取の影響は明確にされていない。 そこで我々は、高血圧発症時期の一時的な塩分バランスの変化の影響が記憶される「塩分メモリー」が存在するか否かを検討することを目的とした。具体的には、本態性高血圧症に最も近いモデル動物と考えられている高血圧自然発症ラット(SHR)に一過性に高食塩食を投与して血圧上昇を起こした後に、通常食塩食に戻した場合の血圧の変化とその成因を検討する研究を行った。 本年の実験結果より、SHRで一過性に高食塩食を投与すると、正常食に戻した後も正常血圧に戻らない、すなわち「塩分メモリー」が存在することが示された。また、「塩分メモリー」が出現するためには、ナトリウムイオン・クロールイオンの両方の存在が重要であることが示された。更に、その機序にはレニンーアンジオテンシン系の変化をもたらす発現調節機構が関与している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの一連の実験により、DSラットや高血圧自然発症ラット(SHR)で一過性に高食塩食を投与すると、正常食に戻した後も正常血圧に戻らない、すなわち「塩分メモリー」が存在することが示された。この現象における血圧変動による直接作用を検討するために、雄DSラットを5群に分け、6週齢から14週齢まで高食塩投与に加えカルシウム拮抗薬(ニフェジピン)、血管拡張薬(ヒドララジン)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(カンデサルタン)で正常食群と同程度に降圧し、その後正常食に戻した後の血圧の変動を定期的に検討する予定である。また、14週と24週で各群のラットを屠殺し、組織学的・生化学的解析を行う予定である。一方、塩分メモリーにおける腎臓の役割を更に明確にするために、雄DSラットを2群に分け、6週齢から14週齢まで高食塩投与を行う。14週齢の時点で、高食塩投与のDSラットから正常食塩投与DSラットの腎移植、および正常食塩投与のDSラットから高食塩投与DSラットの腎移植を行い、各々のラットにおける血圧の変動を比較検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
腎・胸部大動脈・心臓のパラフィン固定標本を作製し、腎はPAS染色、大動脈はHE染色、心臓はMasson-trichrome染色を行う。各切片は光学顕微鏡で観察し、腎臓の組織学的変化を既報の方法に基づいてスコア化する予定である。また、血清BUN、Cr、血漿レニン活性、アルドステロンを、既存の方法で測定する。腎からmRNAを抽出し、レニン発現を、既報のreal-time RT-PCR法を用いて解析する。 研究費はすべて物品費(実験用動物費・試薬・キット等)で使用する予定である。
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