本研究は、クロルヘキシジン(CG)の持続腹腔内投与により誘導された腹膜線維化モデルラットに、GFP遺伝子改変ラットのソケイ部皮下脂肪組織より抽出・培養した脂肪幹細胞を腹腔内移植し、腹膜の変化を検討したものである。 1.脂肪幹細胞の抽出・培養方法の確立:8週令のGFP遺伝子改変ラットのソケイ部皮下脂肪組織より、既報に従い脂肪幹細胞を抽出し、basic FGF添加培地で培養した。得られた細胞は、脂肪細胞や骨細胞への分化能を有し、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105などの表面抗原が陽性で、CD31、CD34、CD45が陰性であった。 2.腹膜線維化モデルラットの作製と脂肪幹細胞の腹腔内移植:既報に従い、8%CGをシリンジポンプを用いて、3週間持続腹腔内投与しモデルを作成した。正常ラットに比して、モデルラットの腹膜は有意に肥厚し、腹膜組織のVEGFやTGF-beta、炎症サイトカインのmRNAは有意に上昇していた。刺激終了後に脂肪幹細胞を移植し、移植後7日目(day7)と14日目(day14)での腹膜を観察した。移植細胞はday7まで腹膜への生着を確認することができ、day14には消失していた。day14での腹膜線維化は移植群で有意に改善していた。 3.線維化改善の要因:細胞移植群では、非移植群に比してTNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインやMCP-1などのケモカインが抑制され、さらに上皮間葉系移行のマーカーであるTGF-βやSnailなどが抑制され、間葉系マーカーであるα-SMA陽性細胞の減少も認めた。尚、移植細胞は線維芽細胞へ形質転換していないことも確認できた。一方、血管新生のマーカーであるVEGFや壁細胞の誘導因子であるPDGF-BBの有意な上昇を認め、HIF-1αや腹膜における新生血管数の低下も認めた。
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