研究課題/領域番号 |
23591227
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所) |
研究代表者 |
道上 敏美 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), 環境影響部門, 部長 (00301804)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 骨細胞 / リン代謝 / FGF23 / DMP1 / PHEX |
研究概要 |
骨細胞は骨芽細胞が骨基質に埋没し、最終分化に至った細胞である。近年、複数の遺伝性低リン血症責任分子(FGF23、PHEX、DMP1)が骨細胞に比較的特異的に発現していることが明らかとなり、骨細胞がリン代謝調節において重要な機能を担っていることが推察されているが、その詳細は不明である。そこで、マウス長管骨から単離した初代骨細胞を用いて、リン代謝における骨細胞の役割について解析した。長管骨を無菌的に摘出し、微細化した後、コラゲナーゼによる細胞外基質の消化とEDTAによる脱灰を反復することにより、骨芽細胞および骨細胞が分化段階に応じて別々に回収された。そこで、X連鎖性遺伝性低リン血症性くる病(XLH)のモデルで、Phex遺伝子に欠失を有するHypマウス及び野性型マウス長管骨より骨芽細胞及び骨細胞を単離し、real-time PCRにより遺伝子発現を比較検討したところ、Hypマウスの細胞ではFgf23に加えてDmp1の発現が著明に増加していた。Dmp1は骨細胞のマーカーとされているが、Hypマウス由来の細胞では、骨芽細胞に相当する分画においてもDmp1の高い発現を認めた。長管骨の免疫染色においても同様の結果が得られ、Phex、Fgf23、Dmp1の緊密な機能的連関が示唆された。また、野性型マウスより単離した初代骨細胞をコラーゲンゲルに包埋し、活性型ビタミンDを添加したところ、標的遺伝子であるRanklの発現増加を認め、活性型ビタミンDが骨細胞に対して直接作用することが示唆された。また、骨細胞への無機リン酸の添加は early growth response-1 (Egr-1)遺伝子の発現を誘導し、骨細胞が無機リン酸刺激に対しても応答性を示すことが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Phex遺伝子に欠失を有するHypマウスより単離した骨芽細胞及び骨細胞の遺伝子発現を野性型マウス由来の細胞と比較することにより、Fgf23に加えてDmp1の発現増加を見いだした。ヒトやマウスにおいてDmp1の機能喪失は骨細胞のFgf23産生の増加をもたらすところから、今回、HypマウスにおいてFgf23とDmp1の発現が共に増加していたことは極めて興味深いと考えられ、今後、Fgf23とDmp1の支配関係について解析を進める。 また、マウス長管骨より単離した骨細胞をコラーゲンゲルに包埋することにより、単離後72時間まで骨細胞としての性状を維持する実験系を確立した。このコラーゲンゲル包埋法を用いることで、活性型ビタミンDや副甲状腺ホルモン、無機リン酸などの液性因子の骨細胞に対する直接作用を検討することが可能となった。本法を用いて骨細胞への無機リン酸の添加を行ったところ、Egr-1遺伝子に加えてDmp1の発現の増強が認められ、骨細胞が無機リン酸刺激に対しても応答性を示すことが明らかとなった。Dmp1はリン代謝関連分子の一つであり、骨細胞に特異的に発現するところから、今後、Dmp1の発現を指標に、骨細胞の無機リン酸応答性を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
Hypマウスより単離した骨細胞、骨芽細胞の遺伝子発現の詳細な検討により、Phexの機能喪失がFgf23に加えてDmp1の発現増加をもたらすことが明らかとなった。今年度は、骨細胞におけるFgf23とDmp1の支配関係を明確にするため、Hyp骨細胞におけるFgf23のノックダウンがDmp1の発現に及ぼす影響や、逆にDmp1のノックダウンがFgf23の発現に及ぼす影響を検討する。また、野性型骨細胞へのFgf23やDmp1の過剰発現が他の遺伝子の発現に及ぼす影響についても検討する。骨細胞における遺伝子のノックダウンは、アデノウイルスベクターを用いたgene-specific miRNAの導入により行う。 また、骨細胞におけるDmpの発現が細胞外無機リン酸濃度変化により変化することが明らかになったので、その機序について解析を進める。骨細胞への無機リン酸添加が種々のシグナル分子のリン酸化に及ぼす影響を網羅的に検討し、リン酸刺激で活性化することが示唆されたシグナル経路に対する阻害剤の添加がリン酸刺激によるDmp1の発現誘導に及ぼす影響を検討する。また、リン酸刺激で発現レベルやリン酸化状態が変化する転写因子を同定し、Dmp1発現制御への関与について検討する。Dmp1プロモーターレポータープラスミドも解析に用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
マウスの購入飼育、細胞培養、遺伝子組み換え実験、Western blot、real-time PCR及びノックダウン実験に関連する消耗品に関連する費用が研究経費として必要である。 また、課題を円滑に遂行するため、培養細胞の維持、分子生物学実験の補助を担当する実験補助員を週1-2回程度雇用するので、そのための謝金を必要経費として計上している。また、国内外での学会において成果発表を行なうための旅費を計上している。さらに、本課題の成果にもとづき論文作成を予定しているので、英語論文校閲と投稿のための経費を計上している。
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