研究課題
アルツハイマー病、パーキンソン病などに代表される神経変性疾患においては、細胞毒性を有する異常凝集タンパクが病変部位の神経・グリア細胞内に蓄積する現象が病理学的指標として広く知られている。近年これらの異常凝集タンパクがプリオン同様に隣接細胞へと伝播し、病理変化を周辺へと拡大させる現象がin vivo、vitro両側面からの研究から実証され、新たな病態パラダイムとして注目を集めている。パーキンソン病あるいは多系統萎縮症の患者脳神経・オリゴデンドログリア細胞質内には異常凝集したαシヌクレイン(αSYN)が蓄積することが知られている。αSYNの細胞内吸収経路に関しては、以前からエンドサイトーシス機構の関与が推測されているもものの、その詳細な分子メカニズムに関しては未だ明らかになっていなかった。本研究ではリコン ビナントαSYNをヒトSH-SY5Yドパミン神経細胞・KG1Cオリゴデンドログリア細胞に曝露する系を用い、同エンドサイトーシス経路の鍵となる分子で あるDynamin Iの機能阻害(→K44A dominant-negative変異体発現あるいはsiRNAによる)がαSYN細胞内取込みを強く抑制することを見いだした。さらに、同エンドサイトーシスを阻害する各種薬剤のスクリーニングにより、強力なダイナミン1阻害活性を有すること が知られている選択的セロトニン再取り込み阻害薬の一種セルトラリンにより、細胞内αSYN取り込みが劇的に減少することを突き止めた。このセルトラリンの効果は、神経-神経および神経-オリゴデンドログリア共培養モデルにおいても確認する事が出来た。以上の成果は関連学会および英文原著論文として関連国際誌に発表している (Konno M. et al., Mol Neurodegeneration 2012)。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定であるαSYN細胞内取り込み過程におけるクラスリン依存性エンドサイトーシスの機能的役割の探索について培養細胞系を用いた機能探索を行い、その研究成果を国際誌に発表する事が出来た (Konno M. et al., Mol Neurodegeneration 2012)。これらの研究成果は東北大学ホームページを介してプレスリリースされ、複数の新聞誌上、インターネット媒体などマスメディアにも取り上げられた。以上の理由により当初の研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
リコンビナントαシヌクレインを脳内投与するモデルマウスあるいはモデルショウジョウバエを用い、セルトラリンによる細胞間シヌクイレン伝播抑制についてvivoでの効果を確認する。併せて、パーキンソン病あるいは多系統萎縮症患者について、セルトラリン内服による脳内シヌクレイン蓄積量の変化を、アミロイドPETイメージングにより経時的かつ定量的に評価する。パーキンソン病、多系統萎縮症の治療は未だ対症療法に留まっており、根治療法・進行抑制療法は確立していないが、本研究の成果は発症早期にセルトラリンの様な薬剤を患者へ投与することで、病変の拡大を阻止するといった、異常タンパク伝播抑制に立脚した治療介入法の可能性を示すことが可能となればと考えている。
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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巻: 3 ページ: (3)
10.1136/bmjopen-2012-002249
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