本研究課題は、パーキンソン病治療標的のひとつであるα-シヌクレインが不可逆的なダメージを神経細胞に与えるか検証することを目標とした。具体的には、アデノ関連ウイルスによってα-シヌクレインをラット中脳に過剰発現させたあと、α-シヌクレインの発現を抑制させ、神経細胞の脱落とα-シヌクレインの凝集体形成がどのように変化するのか解析することである。その方法として、shRNAによるノックダウンなどが考えられたが、ウイルス接種が2回となり、組織への侵襲が大きいことが懸念された。この問題を避けるために、Tet-offシステムを利用した。通常のTet-offシステムとは異なり、Tet-offのエレメントと目的遺伝子のエレメントを、ひとつに組み込んだ新しいベクターを構築し、1回のウイルス接種で目的遺伝子の発現と抑制ができる方法を試みることにした。 当初計画では、初年度にベクターの構築を終える予定であった。しかし、新規ベクターであることから、各エレメントの効率的な配置が不明であった。そのため、配向の異なる3種類のベクターを作製し、各ベクターの発現抑制効率を比較する必要が生じ、時間を要した。しかし、培養細胞を用いて抑制効果の大きいもの選択することができた。最終年度は、このベクターからウイルスを作製(濃縮と精製)し、ウイルス粒子数とゲノムコピー数を決定した。次に、ウイルスをラットに接種して、発現の有無、神経細胞の脱落、α-シヌクレイン凝集体の形成程度といった基礎的データの収集に取り掛かった。残念ながら、Tet-offを実際働かせるところまで到達できなかった。しかし、基礎的データをもとに、今後研究を継続していく予定である。 研究期間中に本課題に関連したα-シヌクレインの神経毒性に関する論文をMol Biol CellとPLoS Oneに報告し、また日本神経学会と日本生化学会大会で発表した。
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