研究課題
まず,これまでに我々が診断した家族性TTRアミロイドーシス症例を解析した.その結果1980年から2011年までに281名の家族性TTRアミロイドーシス患者を診断しており,内243名(86.4%)がVal30Met (p.Val50Met)変異であることが明らかになった.発症年齢は20歳代後半と60歳代前半の二峰性のピークを呈し,男性で罹患率が高く発症年齢が若いことが明らかになった.生検部位では腹壁脂肪吸引生検が最も多く,発症者のほとんどでアミロイド沈着が検出されていた.次に,これまでに我々が診断した老人性全身性アミロイドーシス(野生型TTRアミロイドーシス)16症例を解析した.診断時の平均年齢は76.6歳であったが発症年齢は70.8歳と比較的若く,60代での発症も半数の8例存在した.性別では男性11例に対して女性5例と男性の頻度が高かった.基本的に心臓へのアミロイド沈着を認めた症例のみを老人性全身性アミロイドーシスと診断しているため,全例で心臓関連の症状を認めているが,手根管症候群の頻度も非常に高く,16例中12例で認められ内10例では初発症状であった.アミロ度沈着の確認部位は,心筋生検が12例で最も多く,胃十二指腸生検が10例と続いた.老人性全身性アミロイドーシス患者11例に皮膚生検を行ったところ,陽性は8例で感度は73%と家族性アミロイドーシスに比べ低かった.更に,これまでに我々の施設で心筋生検の免疫染色およびTTR遺伝子解析で診断した心アミロイドーシス50症例を解析した.心アミロイドーシスの原因としては,TTRアミロイドーシスが30例(60%)と最も多く,次いでALアミロイドーシスが18例(36%)であり,両者で96%を占めた.TTRアミロイドーシスの内訳は家族性TTRアミロイドーシスが10例,老人性全身性アミロイドーシスが11例,遺伝子解析未施行が9例であった.
2: おおむね順調に進展している
H23年度は,当初の計画通り,H23年度までに我々の施設で診断した家族性TTRアミロイドーシス患者281名および老人性全身性アミロイドーシス患者16名の解析を終了した.また,H23年度に新規に診断した患者には,発症早期のTTRアミロイドーシス患者も含まれており,これらの患者に対してdiflunisalやtafamidisなどのTTR四量体構造を安定化する新規治療薬の治療介入を開始している.これまでのところ,治療薬に関連する有害事象は認められておらず,今後長期的な経過観察が可能と考えられる.
これまでの研究で,家族性TTRアミロイドーシスには腹壁脂肪吸引生検の感度が高く,一方,老人性全身性アミロイドーシスでは,心筋生検や胃十二指腸粘膜生検の感度が比較的高いことが明らかとなった.また,侵襲性の高い心筋生検の代わりに,99mTc-ピロリン酸心筋シンチを診断に用いる事も可能と考えられた.これらの知見を元に,今後は早期のTTRアミロイドーシス患者を診断し,TTR蛋白の天然構造を安定化させる新規治療(diflunisalの内服治療)を行い,その臨床的な有用性を検討する.
当初計画では,海外出張を本年度実施予定であったが,研究の進捗状況により,次年度実施することとなったため,次年度使用額が生じた. 次年度の研究費の大部分は試薬品代として使用する.研究史薬は,TTR遺伝子の解析および生検組織の免疫組織化学染色を行うために使用する.更に,研究結果をオランダで開催される第13回国際アミロイドーシスシンポジウムで発表する予定であり,この旅費にも使用する予定である.
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