研究課題
本年度、自己免疫介在性脳炎・脳症患者の血清および髄液中に存在する抗神経抗体・抗血管内皮抗体の検出を行った。抗体の検出方法は、培養細胞[ヒト神経芽細胞腫由来細胞(SH-SY5Y Cells)、ヒト大脳微小血管内皮細胞(Cell System-BME Cells)]とラット脳組織を抗原サンプルとした二次元免疫ブロット法と免疫沈降法を用いた。さらにLC-MS/MSシステムを用い、検出した抗体の認識抗原蛋白の同定をおこなった。これまでに、既知の自己抗体を有さない約10例の自己免疫介在性脳炎・脳症患者の血清・髄液中の自己抗体の検索を終了した。このうち、膀胱癌に合併した傍腫瘍性小脳変性症患者の血清を用い、免疫染色によりその存在が確認されたヒト神経芽細胞腫由来細胞中の蛋白を認識抗原とする自己抗体の同定を行った。結果、免疫沈降後に行ったSDS-PAGEにて、コントロールには存在せず患者血清中にのみ存在する200kDa, 250kDa, 280kDaに位置する3つの自己抗体認識抗原蛋白のバンドを検出した。その後、これらのバンドをゲル内より切り出し、トリプシン消化後にLC-MS/MSによる質量分析を施行したところ、1つのバンドから小脳に豊富に存在し、前シナプスのactive zoneに局在する抗原蛋白を同定した。その後の検討で検出した自己抗体のエピトープが同蛋白のC末端近傍にあることを確認した。現在、同定した自己抗体の特異性の検討のため、抗原エピトープを含むリコンビナント蛋白を用いて、その他神経疾患を含めた多数例で自己抗体の有無を確認している。その他にも、スクリーニングの段階ではあるが、非ヘルペス性辺縁系脳炎および傍腫瘍性神経症候群患者の血清・髄液中より、コントロールには存在しない、抗神経抗体・抗血管内皮抗体を検出した。現在、これら抗体の認識抗原蛋白を同定中である。
3: やや遅れている
本年度、予定どおり自己抗体検出システムの構築をおこなった。さらに構築したシステムを用いて既知の自己抗体を有さない約10例の自己免疫介在性脳炎・脳症患者の血清・髄液中に存在する自己抗体の検索を終了した。現時点においてこの中の3例で、比較的特異性が高いと思われる自己抗体を検出し、さらにその認識抗原蛋白の同定を行った。また同時に、このうちの同定が終了した自己抗体に関して特異性の検討を行っている。以上に関しては、ほぼ予定どおりの達成度と考える。ただし当初の目標では、次年度中には50例の自己免疫介在性脳炎・脳症患者の血清・髄液中の自己抗体の検索を終了する予定になっており、今後はさらに精力的に研究を行う必要があると考える。また、本研究では受容体や受容体関連蛋白などの細胞膜表面蛋白を標的抗原とする自己抗体の検出をこころみているが、現在までは検出されておらず、今後、検出のためには構築したシステムのさらなる改良が必要と考えている。
本年度構築したシステムを用いて、今後も引き続き、既知の自己抗体を有さない自己免疫介在性脳炎・脳症患者の血清・髄液中に存在する自己抗体の検索を行い、質量分析によりその標的抗原蛋白の同定を行う。さらに、特異性の検証を目的として、同定した自己抗体の認識抗原リコンビナント蛋白を作成もしくは入手し、一次元免疫ブロットによるスクリーニングシステムを確立する。一方、立体構造を認識する自己抗体に関しては、同定した自己抗体の認識抗原蛋白の遺伝子情報よりプラスミドを作成もしくは入手し、HEK293細胞に導入後、immunocytochemistryによるスクリーニングシステムを確立する。スクリーニングシステムの確立後、そのシステムを用いて多数例での検討を行う予定である。その結果特異性が確認されれば、新たな疾患概念や診断マーカーの確立につながることが予想される。
次年度の研究費も主に消耗品費として使用予定である。その内訳は二次元免疫ブロットに必要なサンプル調整用試薬、等電点電気泳動用およびSDS-PAGE用ゲル、PVDFメンブレン、ゲル内蛋白染色用蛍光試薬、ウエスタンブロット時に使用する二次抗体、抗体の検出に必要な試薬類、免疫沈降法に必要な細胞培養に用いる培地やプロテインA/G、その後の二次元電気泳動に用いる等電点電気泳動用およびSDS-PAGE用ゲル、ゲル内蛋白染色用蛍光試薬などが該当する。さらに抗原蛋白の同定においても、ゲル内より抗原蛋白を切り出した後の処理およびトリプシン消化時に必要とする試薬、さらにこれらの行程で使用する多量のチューブ類や カテーテルチップなどのプラスチック消耗品などに加えLC-MS/MS装置の管理・維持費が該当する。同定した自己抗体の特異性の検証においてはリコンビナント蛋白の作成や購入に関る費用、プラスミドの作成やHEK293細胞へのトランスフェクション試薬などの購入費がかかる。この他にも多数の試薬や抗体類などの購入費用が想定される。また、次年度は、積極的に研究成果を学会や論文等にて発表する予定であり、次年度の研究費はこれらに関る費用としても必要である。
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