研究課題
本年度、昨年度に引き続き既知の自己抗体を有さず抗免疫療法が奏功した自己免疫介在性脳炎・脳症患者の血清・髄液中より免疫沈降法と二次元免疫ブロット法を用いた新たな自己抗体の検出と質量分析による自己抗体の認識する抗原蛋白の同定を試みた。結果、非ヘルペス性辺縁系脳炎患者の血清中に存在する自己抗体の認識抗原として、Integrin, beta 1; Valosin-containing protein; Ubiqutin carboxyl-terminal hydrolase 14 isoform a; Coiled-coil and C2 domain-containing protein 1B; Peroxiredoxin-2; Phosphoglycerate mutase 1; Isocitrate dehydrogenase subunit alpha ; Pyridoxal kinaseを同定した。またProgressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus (PERM)患者の血清および髄液中に存在する自己抗体の認識抗原蛋白としてChloride intracellular channel protein 1; Calponin-3; Heat shock cognate protein 71kDa; ribosomal RNA upstream binding transcription factor; Protein disulfide-isomerase A3; Thioredoxin-dependent peroxide reductase; Ficolin 2を同定した。これらの抗原蛋白は、多くが細胞内可溶性蛋白であるが、一部の蛋白は神経ないし血管内皮細胞膜表面にも発現することが知られているものであった。
2: おおむね順調に進展している
これまでの本研究の一番の成果として、二次元免疫ブロット法と免疫沈降法による新規自己抗体の検出と質量分析による認識抗原蛋白の同定法を確立したことである。その結果、従来よりも短時間に高い確率で自己抗体の検出と膜蛋白を含む多数の自己抗体認識抗原蛋白を同定することが可能となった。現在までに、このシステムを用いて、既知の自己抗体を有さない自己免疫介在性脳炎患者より、上記複数の抗原蛋白を同定しており、本研究に関しては、概ね順調に進展していると思われる。今後、これらの同定した自己抗体の疾患・病態特異性の検討を多数例の患者ならびに健常者を対象として行う予定である。また、今回の研究に関連して、原発性マクログロブリン血症を合併し亜急性小脳失調を呈した症例や十二指腸乳頭部癌を合併し辺縁系脳炎を呈した症例といった、既知の抗神経抗体が陰性の傍腫瘍性神経症候群の患者に対しても、患者の血清および髄液中より、いくつかの自己抗体を検出することができた。現在、これら自己抗体の認識抗原蛋白の同定を質量分析を用いて行っている。両症例ともに免疫組織学的に神経組織に反応する自己抗体の存在が確認されており、後者の症例では抗原蛋白が神経および腫瘍組織の両方で発現している可能性も示唆されるため、今後の検討によっては、新たな傍腫瘍性神経症候群の診断マーカーおよび腫瘍マーカーの確立につながなる可能性も考慮される。
今後は、これまでに当科で経験した症例で、まだ自己抗体の検索が終了していない約15例の既知の自己抗体が陰性の自己免疫介在性脳炎・脳症患者の血清・髄液を用いて、免疫組織学的な検討による自己抗体の存在の確認を行うと同時に、上記方法を用いた、新たな自己抗体の検出と、その認識抗原蛋白の同定を継続して行う予定である。次年度、質量分析に関しては、研究分担者である三重大学 矢野 竹男が主に担当する。また、これまでの研究の結果、新たに自己免疫介在性脳炎・脳症患者の血清・髄液中より同定した自己抗体の特異性につき検討を行う予定である。その方法として、同定した自己抗体の認識抗原リコンビナント蛋白を作成もしくは入手し、一次元免疫ブロットもしくはELISA法によるスクリーニングシステムを確立する。もしくは同定した自己抗体の認識抗原蛋白の遺伝子情報よりプラスミドを作成もしくは入手し、HEK293細胞に導入後、cell-based assayによるスクリーニングシステムを確立する。これらスクリーニングシステムを用いて、さらに多数の神経疾患患者および健常者の検体を用いて、自己抗体の有無を検討する予定である。
該当なし
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