研究課題
本年度、免疫沈降法と二次元免疫ブロット法を用い、既知の自己抗体が陰性の自己免疫介在性脳炎患者の血清・髄液中に存在する、抗神経抗体を新たに同定した。約半年の経過で進行する認知機能障害と両手の振戦をきたし、ステロイド治療が奏功した橋本脳症の66歳女性患者の血清から新たにintracellular adhesion molecule 5 (ICAM5)に対する自己抗体を検出した。ICAM5は終脳の神経細胞膜表面に存在し、神経細胞間や神経細胞と白血球間の結合、神経細胞とミクログリア間の相互作用に重要な役割を担っていることが知られている。抗ICAM5抗体と同患者の病態機序の間に何らかの関連性がある可能性が示唆された。また膀胱癌を合併し、約半年の経過で小脳失調を呈した傍腫瘍性小脳失調症の80歳男性患者の血清中から新たに抗リアノジン受容体(RyR1)抗体を同定した。抗RyR1抗体に関しては、以前より重症筋無力症患者で陽性になることが知られており、特に胸腺腫合併例でその陽性率が高いことが報告されている。一方、RyR1は横紋筋と中枢神経(小脳・海馬)に発現していることが知られており、小脳では主にプルキンエ細胞の細胞質で発現し、本例におけるラット脳組織を用いた免疫染色パターンと一致した。ちなみに本例では、重症筋無力症を示唆する神経学的所見はみとめられなかった。抗RyR1抗体と小脳失調症状との関連性に関しては今後、更なる検討が必要と考えられるが、傍腫瘍性症候群の側面をもつ胸腺腫合併重症筋無力症以外にも一部の傍腫瘍性小脳失調症患者で抗RyR1抗体が陽性となる可能性が示唆され、今後さらに多数例での検討が必要と考えられた。また自己免疫介在性脳炎患者の髄液BAFF, APRIL値を測定したが、異常はみられなかった。一方、単純ヘルペス脳炎患者では上昇を認め、両疾患の鑑別に有用であること報告した。
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