本研究は、有髄神経線維のランビエ絞輪パラノード部に局在する膜タンパクCasprの遺伝子に変異を持つ突然変異マウスShamblingの中枢ならびに末梢神経系を研究して、その病態機序を解明し、マウスの進行性の病変との関連を検討することを目的とする。Shamblingマウスのあらわす神経症状は、主に下肢の運動麻痺であることから、本年度は、神経筋伝達の異常と骨格筋の発達に注目して研究を行った。実験には、歩行失調をあらわすようになった生後2~3週齢、比較的症状の軽い成獣期の3ヵ月齢、神経症状が進行して歩行の困難となった老齢期生後12~20ヵ月齢のマウスを用いて、経時的な解析を以下のように行った。1:神経筋接合部の形態変化の解析:マウスの下肢骨格筋を取り出し凍結切片を作成して、免疫組織染色により神経線維軸索とシナプス終末を検出し、更に、組織化学染色によって骨格筋線維上の後シナプス受容部を可視化した。染色標本は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した後、画像解析ソフトを用いて定量解析を行った。Shamblingマウスの神経筋接合部の形成は、生後2~3週齢では正常に比べ未成熟な形態であり、また、成獣期と老齢期では、異常な形態を示すものが存在した。2:マウスの下肢骨格筋を取り出し、パラフィン包埋組織切片を作成して、骨格筋組織ならびに骨格筋線維の発達、形成を定量的に解析した。Shamblingマウスの骨格筋線維は、すでに、生後2~3週齢から径の太さに正常と差が有り、発育に応じた筋の成長・発達も不良であった。以上の研究から、Shamblingマウスでは、生後早期から始まる有髄神経線維の興奮伝導遅延によって、神経筋伝達の異常が起こっており、骨格筋の発達にも影響を及ぼしていると考えられた。
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