研究課題
mRNAスプライシング異常の観点から遺伝性骨格筋疾患、特にNaチャネル異常症および筋強直性ジストロフィーについて検討を行った。 我々が世界で初めて同定したイントロン領域の遺伝子変異によるミオトニーの症例の分子機序について解析を行った。その結果、AT-ACIIイントロンと呼ばれる特殊なイントロンの5’のスプライス部位の認識・決定にはU1snRNPに加え、U6 snRNPのmRNA結合が重要であることが明らかとなった。また、骨格筋チャネル病が疑われるものの変異が同定されていない検体について、エクソンに近接するイントロン領域の変異の有無について検索した。正常多型として報告されていないいくつかの変異を見出すことができたが、疾患との関連性については現時点ではまだ明らかになっていない。 筋強直性ジストロフィーについて、遺伝性不整脈の原因遺伝子を候補に心筋におけるmRNAのスプライシングをスクリーニングしたところ、心筋型Naチャネルにスプライシング異常がある可能性が判明し、さらに多数例の剖検検体でも確認した。そこで、このチャネルを培養細胞に発現させ、電位依存性などに機能的変化があるかどうかをパッチクランプ法による計測を行い、データ収集をほぼ終えることができた。いっぽう、このmRNAスプライシング異常の分子機序の解明のため、フロリダ大のSwanson教授が作出したMBNLノックアウトマウスの心筋組織を解析したが、異常を認めなかった。このことは、MBNL以外の分子が関与している可能性を示唆すると考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の当初計画では、筋強直性ジストロフィーに関してはチャネルmRNAスプライシング異常のスクリーニングのみであったが、スクリーニングにより明らかな異常が同定されたことから、翌年度以降に計画されていたチャネル機能解析もほぼ終了でき、予定以上の研究の進展が得られた。
本年度骨格筋チャネル病が疑われるものの変異が同定されていない症例について検索し、エクソンに近接するイントロン領域に正常多型として報告されていないいくつかの変異を見出すことができたので、次年度は疾患との関連性については明らかすることを目指す。 筋強直性ジストロフィーの心筋型Naチャネルのスプライシング異常については、チャネルの機能解析を進め、生理学研究所井本敬二教授、滋賀医科大学循環器内科伊藤英樹博士などと協力し心伝導系のシミュレーション研究を推進する。また分子機序についてはモデルマウスの検討でMBNLの関与がやや否定的なことから、東京大学石浦教授や理化学研究所の紀博士、フランスIGBMCのCharlet-Berguerand博士などと情報交換し、共同研究を行う。
パッチクランプデータ収集用のAD/DAコンバーターおよびコンピューターが経年変化のため動作不良が時々生じており、次年度中にAD/DAコンバーターを含めた買い替えが必要になる可能性が高い。そのため本年度は本研究費からの消耗品の支出を極力控えることとした。次年度は、AD/DAコンバーターおよびコンピューターが動作不能になる様であれば購入し、研究継続に支障が出ないようにする予定である。その他、分子遺伝・生物学的実験に関わる消耗品、人件費、情報収集・成果発表のための旅費を中心に使用する。
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