研究課題/領域番号 |
23591247
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松下 拓也 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 学術研究員 (00533001)
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研究分担者 |
吉村 怜 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 共同研究員 (20596390)
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キーワード | 多発性硬化症 / 視神経脊髄炎 / マクロファージ / PRKCH |
研究概要 |
多発性硬化症(MS)の極めて初期の病巣における病理学的評価では,オリゴデンドロサイトの変性が先行することが示されており,また周囲には活性化したミクログリアが確認されている。また初期病巣におけるオリゴデンドロサイトの変性・アポトーシスは,周辺ミクログリアの活性化に伴う炎症促進性サイトカインの分泌がトリガーとなっている可能性がある。一方MSとは異なる病態機序を有すると考えられている視神経脊髄炎(NMO)においては,その特異的抗体の自己抗原であるaquaproin4(AQP4)がアストロサイトの足突起に主に発現していることや,病理学的評価によるGFAPやAQP4の発現低下の所見から,アストロサイト障害を主体としていると考えられているが,ミエリン蛋白の消失やミエリン蛋白貪食マクロファージはNMOにおいても認められており,アストロサイト障害と脱髄形成を結ぶ過程についてはいまのところ十分な説明仮説が存在しない。とくにミクログリアとの関連についてはほとんど不明である。 我々は,日本人において頻度が高く,ラクナ梗塞の発症リスクであることが確認されたPRKCH多型(SNP rs2230500)がマクロファージ機能に影響を与える事が示されている事から,同多型の頻度をMS,NMO患者において確認したが,同多型と発症リスクとの関係は認められなかった。しかし,末梢血単球のサブセットをフローサイトメーターで検討したところ,無治療寛解期MSにおいて,rs2230500-AAまたはrs2230500-GAの群では,rs2230500-GG群よりもCD14+CD16-細胞中とCD14+CD16+細胞中のCX3CR1+細胞の割合が高かった.また,rs2230500-GG群において,無治療寛解期MSでは健常者よりもCD14+CD16-細胞の割合が少なかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特発性再発性中枢神経脱髄性疾患患者を対象とした,高感度のAQP4抗体測定を含めたNMO群,MS群の群分け,およびPRKCHの一塩基多型(rs61740172,rs2230500,rs2230501)をPCR direct sequencingにより確定した。さらに末梢血単球のサブセットのフローサイトメーターによる検討をおこなっている.病理学的解析については今までに収集されたMS5例,NMO11例の剖検標本(いずれもパラフィン包埋)を対象として,アストロサイトマーカーを中心に解析を進めている。今後マクロファージの集簇部位(急性期脱髄病巣)を中心にマクロファージ/ミクログリアの機能性バランスを表面抗原や産生物質を対象とした抗体を用いて免疫組織学的染色を行い評価する。
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今後の研究の推進方策 |
疾患リスクとしての相関は確認できなかったが,PRKCH多型はある特定の条件下で単球への影響が示唆された.したがって,臨床情報と多型頻度との相関を統計学的にさらに解析するとともに,末梢血,および脳脊髄液中のTh1/Th2およびM1/M2比を産生サイトカイン,表面抗原に対する抗体を用い,フローサイトメトリー法により同定する。これらTリンパ球,マクロファージの機能的なバランスとPRKCH遺伝子多型との関連を明らかにする。また脱髄性疾患患者再発時の髄液の収集を進め,蛍光ビーズサスペンショアレイ法によりサイトカイン・ケモカインを一括測定し,PRKCH多型との相関を明らかにする。PRKCH多型との関連が免疫学的に確認された場合は,PKCetaノックアウトマウスを用い、実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症させ,その重症度の違いをwild mouseと比較する。PKCeta以外のマクロファージ・ミクログリア機能に関連した候補SNPを検討し,いくつかの一塩基多型と特発性脱髄性疾患の発症リスクとの関連を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
組織染色およびフローサイトメトリ,サイトカイン・ケモカイン測定用の抗体.またPKCeta以外のマクロファージ/ミクログリア機能に関連する多型検索のため,いくつかの候補SNPの同時的genotypingにかかる費用。
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