研究課題
両親が従兄弟婚で,常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺に小脳失調と末梢神経障害を伴った同胞例において,インフォームドコンセントを得,患者白血球由来DNAを用いてSNP6.0アレイによる連鎖解析を行った.染色体1,2,11,17の一部分に原因遺伝子と連鎖した部位を同定した.発端者の遺伝子を用いてエクソーム解析を行い,連鎖する領域内に存在する遺伝子変異を検索したところ,3つの遺伝子に,新規遺伝子変異をホモ接合体で同定した.うち2つの遺伝子変異はタンパク質機能変化予測プログラムから,正常多型と考えられた.残る1つの遺伝子LYSTに新規ミスセンス変異をホモ接合体で認めた.同変異は同胞患者にはホモ接合体で存在したが,発端者の妻には無く,子にヘテロ接合で認められ,正常コントロールには認められなかった.また,種を超えて保存されたアミノ酸を変化させていた,さらに,血液学的検査を行ったところ,患者2名ともChediak-Higashi症候群(CHS)で認められる,末梢血の多形核球内にペルオキシダーゼ陽性の巨大顆粒と,NK細胞活性の低下を認めた.本家系の症例では,臨床的に明らかな易感染性や部分的白子症は認められなかったが,白血球の巨大顆粒や末梢神経障害,小脳失調などの神経症状を認め,それらはCHSの症状である可能性が高いと考えられた.常染色体劣性遺伝性の,小脳失調,末梢神経障害を伴ったHSP家系の遺伝子解析を行い,LYST遺伝子の新規ミスセンス変異を同定した.血液学的検査結果も合わせると,成人発症のCHSの可能性が高いと考えられた.劣性遺伝性の痙性対麻痺や小脳失調,末梢神経障害などを呈する疾患の鑑別疾患として,CHSも念頭に置くことが必要であると考えられた.
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画書に記載した,遺伝子同定を試みる遺伝性痙性対麻痺の2家系のうち,1家系についてはC12orf65遺伝子の新規遺伝子変異を同定し,ミトコンドリアタンパク合成機能低下を証明し,論文発表も完了した.またもう1家系についても,連鎖解析とエクソーム解析により新規のLYST遺伝子変異を同定でき,成人発症の痙性対麻痺を主とするChediak-Higashi症候群であると診断されたため.
今年度以降は,第3,第4家系において,患者と健常者の検体での一塩基多型を用いたゲノムワイド連鎖解析や,患者の全エクソンの塩基配列解析を,文科省新学術領域「ゲノム支援」の協力を得て行う.それらの結果が出れば,候補遺伝子変異が病的なものか検討するため,家系内のco-segregation studyや,可能であれば機能解析なども行う.
第3,第4家系において,患者と健常者の検体での一塩基多型を用いたゲノムワイド連鎖解析や,患者の全エクソンの塩基配列解析の結果が出れば,同定された数個の候補遺伝子の変異が真の病的遺伝子かどうか判定するため,家系内の患者,未発症者や,コントロールの正常者,他の家系の患者に変異があるかどうか多数の遺伝子解析を行う.それに必要な消耗品の研究費がかなり必要になる.
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