研究課題
「筋強直性ジストロフィー1型(DM1)患者およびノックアウトマウス(MBNL1並びにMBNL2)の脳におけるスプライシング異常プロファイルの作製」として、我々は、Swanson教授(米国、フロリダ大学)から、MBNL1/MBNL2それぞれのノックアウトマウス脳でのexon arrayを用いた新規スプライシング異常の全データを供与された。このデータを基に、DM1患者脳・MBNL1ノックアウトマウス脳で共通する3個の、DM1患者脳・MBNL2ノックアウトマウス脳で共通する10個の新規スプライシング異常を見出した。MBNL2ノックアウトマウスではDM1患者で見られる認知機能障害、睡眠障害が認められた。本疾患では、原因遺伝子であるDMPK遺伝子におけるCTGリピートからの転写物が、核内に蓄積し、MBNL1、MBNL2などのスプライシング制御蛋白を核内に閉じ込めることが知られている。我々の研究から、本疾患における中枢神経スプライシング異常には、MBNL1、MBNL2という二つのスプライシング制御蛋白がかかわっており、MBNL2の関与がより大きいことが明らかになった。「脳各部位でMBNL1/2蓄積などの各種パラメーターの検討」としては、脳の各部位(前頭葉、海馬、側頭葉、小脳)での検討を行った。小脳では、DMPK遺伝子のCTGリピートが少なく、DMPK遺伝子転写物は他の部位とほぼ同じで、DMPK蛋白は他の部位より減少していた。またMBNL1、MBNL2の発現については小脳、海馬などで同様の発現量であった。スプライシング異常については他の部位と比べ小脳で軽度であった。本疾患では記銘力障害などがみられ、小脳障害はみられないが、小脳ではDMPK遺伝子のCTGリピートが短く、その結果としてスプライシング異常が起こりにくいことがその理由として考えられた。
2: おおむね順調に進展している
「DM1患者およびノックアウトマウス(MBNL1並びにMBNL2)の脳におけるスプライシング異常プロファイルの作製」については、共同研究者のSwanson教授との共同研究でそれぞれのノックアウトマウスとヒトDM1患者で共通する多数の新規スプライシング異常を明らかにした。結果から、脳ではMBNL1/MBNL2二つのスプライシング制御蛋白が関与していることが証明された。MBNL2ノックアウトマウスの解析では、本症で見られる認知機能障害、睡眠障害が再現され、認知機能障害についてはNMDA受容体の機能低下の関与が示唆された。このようにMBNL1/MBNL2という二つのスプライシング制御蛋白に着目し、それぞれのノックアウトマウスを使った研究が、当初の予想以上に進展した。「脳各部位でMBNL1/2蓄積などの各種パラメーターの検討」については、マウス、ヒトでのMBNL1の発現量、スプライシング異常、CTGリピート数(DM1患者における)、DMPKの転写物量、蛋白量について検討し、いくつかの重要な知見が得られた。まずMBNL蛋白は小脳、大脳に同様に発現している。スプライシング異常はヒト小脳で少なく、他の領域では同程度に起こっている。DMPKの転写物量については、各部位で大きな差は認めないが、蛋白量については、小脳で低下していた。CTGリピート数については、他の領域に比べて小脳で少なかった。現時点では小脳でスプライシング異常が起こりにくく、症状がみられない原因としては、MBNL1の発現量によるのではなく、小脳ではCTGリピート数の増大による異常RNAの蓄積が少ないことが、主たる原因として考えられる。このように中枢神経における症状発現には様々なパラメーターがかかわっていることを明らかにした。それぞれのパラメーターの関係は今後の課題だが、当初の研究目的に照らすとおおむね順調に進展している。
1.筋強直性ジストロフィー1型中枢神経スプライシング異常の病態への影響の検討我々の研究から、脳ではほとんど知られていなかったスプライシング異常が多数明らかとなった。その中でどのスプライシング異常がどのように病態にかかわるかが今後の課題である。今年度はある種のスプライシング異常が、転写物量、蛋白量、細胞内局在、機能の変化を起こさないかを検討する。得られた結果は今後の研究の足掛かりとなる。2.筋強直性ジストロフィー1型患者由来iPS細胞を用いたスプライシング異常解析、CTGリピート伸長機構の検討本症の中枢神経症状を再現するに当たり、MBNL1/MBNL2それぞれのノックアウトマウスは非常に有用であった。しかし他のモデルマウスも含め、中枢神経症状のモデルマウスは完全にヒトの病態を再現できているわけではない。ヒトDM1患者由来iPS細胞を神経細胞に分化させることにより、病態のさらなる解明、治療可能性の検討を行える可能性がある。そこで、京都大学iPS細胞研究所との共同研究で、ヒトDM1患者由来iPS細胞を作製する。その細胞を神経細胞に分化させ、CTGリピート数を計測する。本疾患患者脳ではリンパ球に比べCTGリピート数は増加しており、そのモデルを作成できるかどうかを検討する。リピート数の増大が認められた場合は、DMPK遺伝子などの発現をsiRNAなどを用いて変化させ、リピート数への影響を検討する。また神経系に分化させた細胞を用いて、本疾患中枢神経で見られるスプライシング異常が認められるかどうかを検討する。認められた場合には、それにかかわるスプライシング制御蛋白を強制発現させることによる治療可能性の検討、新たなスプライシング制御蛋白の同定などを行って行く。
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Neuron
巻: 75 ページ: 437-50
10.1016/j.neuron.2012.05.029.