研究課題/領域番号 |
23591260
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
村上 龍文 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (30330591)
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研究分担者 |
砂田 芳秀 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00240713)
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キーワード | 糖尿病性多発神経炎 / 神経再生治療 |
研究概要 |
モデルマウスとして用いているSTZ誘発性糖尿病マウスの感覚性ニューロパチー発症機序を解明するため、このマウスを行動学的、電気生理学的、病理学的検査で経時的に調べた。その結果このマウスでは糖尿病初期から無髄線維が選択的に萎縮しており、有髄線維は成長・発達障害があることが明らかとなった。以上のことからこのマウスは温痛覚がより障害される糖尿病性ニューロパチー(small fiber neuropathy)の病態を反映することが示唆され、表在覚の神経再生の治療薬のスクリーニングに有用であると推察された。これらの結果は論文としてまとめ、Brain and Behavior 2013年1月号にpublishされた。 次にVEGFは糖尿病性神経障害を有意に改善・再生させることから、VEGFシグナル系に関与する84遺伝子の発現を、糖尿病マウス坐骨神経と正常マウス坐骨神経で比較した。その結果VEGFシグナル系は遺伝子発現レベルでは全般的に糖尿病で増加傾向にあり、特にAkt & Pi-3-kinase signaling (Akt1, Akt3, Pik3ca, Pik3cd, Pik3r1, Pik3r2, Pik3r3)やProtein kinase C (Prkca, Prkcb)のpathwayの亢進が観察された。またこれまでの研究から神経再生に重要と考えられるNP-1受容体とVEGFAの遺伝子発現は、糖尿病で2.97と1.99倍増加していた。 VEGFの逆向性軸索輸送については、正常マウスの坐骨神経結紮モデルでVEGF-flag発現ベクターを筋肉に導入したが、坐骨神経の免疫染色では逆向性輸送は観察されなかった。このベクターは遺伝子を導入した筋では発現しており、ラットと異なりマウスではVEGFの逆向性軸索輸送は生じていない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラットで報告されているVEGFの逆向性軸索輸送は、正常マウスの坐骨神経結紮モデルでの免疫組織化学的解析では再現できなかった。またpreliminaryな結果だが坐骨神経組織のVEGFのELISAでも検出されていない。われわれのマウスモデルとラット糖尿病モデルでは異なる機序で感覚神経細胞が回復している可能性がある。 VEGFの神経再生分子機序の検討では、STZ誘発糖尿病ddYマウスの末梢神経でVEGFシグナル系、特にAkt & Pi-3-kinase signaling pathwayが遺伝子発現レベルで亢進していることが明らかとなった。糖尿病末梢神経ではこの系が代償的に亢進していると考えられる。またこのマウスでは糖尿病初期から無髄神経線維が選択的に障害されることを明らかにしており、VEGFシグナル系が無髄神経線維の維持に重要なことが示唆された。 以上の結果よりVEGFの感覚神経再生機序解明の方向性が見えてきたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
STZ糖尿病マウスにおけるVEGFでの感覚神経細胞の改善機序として、1. 逆向性軸索輸送を介した効果、2. 血液脳関門が欠如したDRGへの血流を介しての直接効果、3. 表皮神経線維末端への血流を介した直接効果、の3つのルートによる改善機序が考えられる。本研究は糖尿病ラットでの研究で強調されていた1を調べたが主要な機序である可能性は低くなっており、2や3の可能性も考えられる。そこでマウス疾患モデルで逆向性軸索輸送の有無をさらに確かめるとともに、正常マウスと糖尿病マウス皮膚でVEGFやSema3Aの抗体を用いた免疫組織化学染色を行い3の可能性を探っていくこととする。 VEGFの感覚神経再生の分子機序に関しては、調べる部位を坐骨神経からDRGに移行していき、糖尿病マウスと正常マウスのDRG神経細胞を免疫組織化学染色で調べる。VEGF, NP1, p-AKT, PGE2, glyoxalase I (GLO1)の抗体でその分布や発現細胞数を調べsignaling pathwayの状態を探る。GLO1は最近糖尿病の痛覚過敏に関係すると報告されている酵素である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究費はDRGや皮膚の免疫組織化学染色のための各種抗体や試薬と、マウスの購入、飼育の費用にあてる、また現在投稿を予定している論文の掲載費やリプリント代に使用する予定である。
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