研究課題
高齢化社会を迎えてますます臨床的な重要性を増している脳血管障害であるが、その後遺症を軽減する画期的な治療法は未だ開発されていない。脳血管障害の7割を占めている脳梗塞は、急性期に拡大・増悪し、時に致死的状態をもたらすが、近年急性期脳梗塞における分子機構・シグナル伝達が徐々に明らかになり、脳虚血発症後に脳血流以外の因子が脳梗塞を拡大・増悪させることも示唆されている。近年脳梗塞における免疫応答の役割が注目されているが、我々は最近、脳梗塞増悪過程におけるインターロイキン23-17 axisの重要性を明らかにしている。本研究では、遺伝子改変動物ならびにin vivo遺伝子導入法を駆使して、脳梗塞における同axisを中心とした免疫応答・炎症反応の詳細な機構と治療標的としての意義を探究するとともに、国産遺伝子導入ベクターの有用性を検討することを目的としている。初年度に引き続き、当該年度では、脳梗塞の増悪機構における免疫応答、特にIL23-IL17 axisの活性化をもたらす炎症シグナルを検討した。このために、初期免疫応答に関連するシグナルの遺伝子改変動物を用い、脳虚血早期の段階における自然免疫機構の解明を試みた。特にToll like受容体(TLR)やその下流シグナルの遺伝子改変動物とその免疫担当細胞を用いて、IL23の発現誘導をもたらす刺激について検討した。脳虚血の作製には、栓糸閉塞モデルを用い、脳血流量などの生理学的パラメーターを測定し、再現性に優れた脳虚血モデルを作製した。治療効果を判定するために、組織傷害のみならず、神経機能への影響も評価した。
2: おおむね順調に進展している
近年、種々の炎症性疾患での重要性が注目されている IL-17であるが、我々はIL-17を産生する細胞が虚血脳で増加し、その浸潤にはIL23の刺激が必要であること、IL17産生細胞が当初想定されたCD4陽性Th17細胞ではなく、γδT細胞であること、しかも、その浸潤が脳虚血後3日をピークとすること、さらに、脳虚血導入1日後からの治療開始によるIL-17の抑制であっても脳梗塞を縮小できることを報告している (Nat Med 2009)。初年度および当該年度では、このIL-17の発現をもたらす上流シグナルの解析を主として行った。すでに、マクロファージから放出されるIL-23によるγδT細胞の刺激が重要であることを報告しているが、今回は、さらにその上流シグナルについての系統的な検討を、遺伝子改変動物でのFACS解析などで行った。また、培養樹状細胞を用いた刺激実験による解析も行った。浸潤炎症細胞からのIL-23の放出に、TLR2およびTLR4が寄与することを初年度に明らかにしたが、当該年度では、傷害脳組織から放出されてTLR2/4を刺激する物質が、従来抗酸化物質と認識されてきたperoxiredoxin familyであり、新規のdamage-associated molecular patternsとして、脳虚血後の炎症惹起物質として働くこと、その阻害抗体の虚血後投与により、脳梗塞の縮小と神経徴候の改善が認められることを明らかとした(Nat Med 2012)。また、研究者が日本側責任者として日米の第一線脳虚血研究者30名を招いてNew Orleansで開催したTranspacific Workshop on Strokeで、詳細な内容を講演発表した。
当該年度までに行ってきた脳梗塞における免疫・炎症応答に関連した探索的検討を継続する。特に、IL-23産生をもたらすマクロファージなどの免疫応答細胞浸潤に寄与する因子について詳細な検討を勧めていく。また、γδT細胞から産生されるIL-17の下流における脳梗塞増悪機構に関しての検討を行うことで、さらなるtherapeutic time window拡大の可能性を探究する。また、我々はすでに広汎な炎症抑制作用を有し、Th2応答の重要な因子であるインターロイキン10 (IL-10) 遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを用い、脳虚血導入後の IL-10遺伝子導入であっても、脳梗塞を著明に縮小し、炎症細胞浸潤が抑制されることを示している (Circulation 2005)が、最近の報告では、IL-10産生性の調節性T細胞 (regulatory T cell: Treg)が脳虚血において脳保護的に作用することが報告された (Nat Med 2009)。しかしながら、その作用時期は比較的後期(脳虚血後7日)とされ、その上流シグナルについては十分明らかではなく、Tregの保護効果についての反証も報告されている。したがって、Tregの活性化をもたらす上流シグナルの解析に関しても、系統的な検討を前述の方法を用いて解析する。また、これまでに明らかとなった重要シグナルの中から、治療応用が有望な物質を標的とした遺伝子治療についての検討を行う。
引き続き、脳虚血を中心とした病態モデルを用いたin vivoの実験ならびに培養免疫担当細胞を用いた in vitroの実験を行う。そのために、実験動物や細胞培養、試薬などの消耗品、ならびにその使用のための物品費および実験遂行のための謝金を必要とする。また、研究成果の発表を国際脳卒中学会で行う予定であり、その際に研究協力者との打ち合わせも行うため、海外渡航などの旅費を必要とする。
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