研究課題/領域番号 |
23591265
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(宇多野病院臨床研究部) |
研究代表者 |
山本 兼司 独立行政法人国立病院機構(宇多野病院臨床研究部), その他部局等, 研究員 (50378775)
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研究分担者 |
澤田 秀幸 独立行政法人国立病院機構(宇多野病院臨床研究部), その他部局等, その他 (30335260)
山川 健太郎 独立行政法人国立病院機構(宇多野病院臨床研究部), その他部局等, 研究員 (70447960)
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キーワード | αシヌクレイン / パーキンソン病 / レビー小体型認知症 / 膜興奮性 / シナプス伝達 / オリゴマー / 神経変性 / ドーパミン |
研究概要 |
本研究では、パーキンソン病やレビー小体型認知症の病因と推察されている部分凝集したαシヌクレインがヒトの脳でどのように分布するかを、患者剖検脳切片からのαシヌクレイン部分凝集体を抽出して各部位における部分凝集αシヌクレインの存在や分子状態を比較検討し、それらがどのような神経機能異常を生ずるかを細胞電気生理学的手法によって明らかにすることを目的としている。本年は、神経細胞機能異常を左右する重要な要素の一つである膜興奮性をターゲットに研究を進めた。マウス前頭葉皮質スライスのII/III層錐体細胞に、ドパミン、野生型合成αシヌクレイン、ドーパミン存在下にて37℃3日間インキュベートした野生型合成αシヌクレイン(αシヌクレイン+ドーパミン)、両者を含まない、の4種類のピペット内液を、パッチピペットから細胞内投与した。4種類の内液のうち、αシヌクレイン+ドーパミン溶液を細胞内投与した場合に、連発スパイクにおけるスパイク数が有意に減少した。静止膜電位、スパイク幅、スパイク高、スパイク後脱分極、スパイク後過分極といった、スパイク発生にかかわる基本的な特性については、4群間で有意差を認めなかった。野生型(WT)、A30P変異型、A53T変異型の三種類の合成αシヌクレインを用いたウエスタンブロット解析では、αシヌクレイン+ドーパミンで、αシヌクレイン単独では認めなかった高次オリゴマーのバンドを検出した。以上の結果より、αシヌクレインオリゴマーは大脳皮質錐体細胞の発火頻度を低下させることが示唆された。これらの結果を元に、膜興奮性抑制を生ずるαシヌクレインオリゴマーのターゲットを解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度は、23年度の結果を元にして、合成αシヌクレインを細胞内投与した上で神経細胞の膜興奮性にターゲットを絞って検索した。まず、αシヌクレインオリゴマーができる条件を検索し、野生型、又はA53T及びA30P変異型合成αシヌクレインはドーパミンとインキュベーションした時のみに、ピペット内液という条件下で安定して高次オリゴマーが含まれていることを確認でき、これを細胞内投与してパッチクランプ法を用いて、αシヌクレインオリゴマーが神経細胞の膜興奮性に与える機能異常を調べられるようになった。意外なことに、αシヌクレインオリゴマーは、スパイク頻度を左右する代表的なパラメータである膜電位、スパイク波形、スパイク後脱分極やスパイク後過分極には影響することなく、スパイク発火頻度を低下させることを見出した。この結果は、以前に我々が見出したアミロイドβによるBKチャンネル抑制由来の膜興奮性抑制作用とは対照的で、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症における大脳皮質錐体細胞の活動異常を考察する上で、示唆に富む知見と思われる。また、これらの結果を踏まえることによって、患者剖検脳切片からのαシヌクレインがもたらしうる神経機能異常の候補を絞り込むことが可能になり、次年度の研究につながる手掛かりが得られたと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)野生型、又はA53T及びA30P変異型合成αシヌクレインからドーパミン存在下、非存在下でインキュベートすることによって生成したモノマー又は部分凝集体を用い、マウス、又はラットの脳スライス標本における大脳皮質錐体細胞に各分子状態のαシヌクレインを パッチピペットから細胞内から投与し、種々の分子状態にあるαシヌクレインによって生ずる神経機能異常を膜興奮性やシナプス伝達の観点から電気生理学的に検証すると共に、その異常を生ずる原因となるイオンチャンネル、受容体を薬理学的に検索して、異常を生 ずるメカニズムを明らかにする。 2)パーキンソン病患者やレビー小体型認知症患者の剖検脳切片からのαシヌクレイン部分凝集体の抽出を行う。レビー小体の有無に関わらないαシヌクレイン部分凝集体の分取を目的とするため、用いる部位としては前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、小脳からの切 片とする。各切片より可溶性分画を抽出し、各部位における部分凝集αシヌクレインの存在や分子状態を比較、検証する。これらの剖検脳由来の検体を細胞内投与した上で、1)で認めた合成部分凝集体による機能異常が生ずるかを比較検討する。 3)パッチピペットから合成、ないしは剖検脳由来のαシヌクレインを大脳皮質錐体細胞、および海馬CA1錐体細胞に注入し、さらに細胞外にAβ1-40、又はAβ1-42を投与した上で、1)2)と同様の実験を施行し、αシヌクレイン、Aβそれぞれ単独投与の場合と比較して相乗作用が生ずるかを検証する。さらに、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬physostigmine、galantamineの投与下で同様の実験を行い、αシヌクレインやAβによる神経興奮性やシナプス伝達の変化がレスキューされるかを検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に引き続き合成シヌクレイン、電気生理学的実験や薬理学的検索に必要な試薬、ラット・マウスを購入する。剖検脳からの部分凝集シヌクレイン抽出や分子状態の解析に必要な物品も購入する。得られた研究成果については学会等にて報告する予定である。
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