研究課題/領域番号 |
23591276
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川又 敏男 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (70214690)
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研究分担者 |
小野 功貴 神戸大学, 学内共同利用施設等, 教授 (10243297)
向井 秀幸 神戸大学, バイオシグナル研究センター, 准教授 (80252758)
高橋 美樹子 帝京平成大学, 薬学部, 教授 (90324938)
前田 潔 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (80116251)
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キーワード | 国際情報交換(カナダ) / 認知症 / 神経細胞変性 / 細胞内シグナル伝達 / タウ蛋白 / 蛋白リン酸化酵素 / 蛋白脱リン酸化酵素 |
研究概要 |
多くの変性型認知症患者脳組織には、タウ蛋白が異常代謝を受けて重合し細胞毒性を示すオリゴマーが、また一部は細胞内封入体として沈着する神経原線維変化(タングル)が形成され、最も代表的な変性型認知症であるアルツハイマー型認知症(AD)では認知症症状・神経回路障害の程度とタングル形成程度との相関が報告されている。そこで、ADにおける神経細胞変性メカニズムの解明および同機序に基づく根本的治療法開発に資するため、タウ代謝異常の初期段階に生じる異常リン酸化についてリン酸化-脱リン酸化バランスの破綻や、その反応部位の制御異常の視点から、タウ代謝の上流あるいは細胞周期制御を含めてリン酸化酵素・脱リン酸化酵素複合体に関わる細胞内シグナル伝達の異常を検討した。 複数の、タウを基質とするPKN1・PKC・PKA・CK1 delta・Cdk2などの蛋白リン酸化酵素や、PP1・PP2A・PP2Bなど蛋白脱リン酸化酵素が種々の組合せで会合し、極性をもつ神経細胞の頂上区画・核周囲区画等さまざまな細胞内コンパートメントにその反応が厳密に制御されている巨大なscaffold分子を中心とする活性複合体とタウ蛋白代謝あるいは細胞周期制御との関連を、正常対照高齢者およびAD患者の脳組織を対象として解析した。とくにタウ代謝との関連が深いと考えられるPI3K-PKB経路を介した細胞内情報伝達を分析して同経路におけるPDK1・PKC delta・p70 S6Kと異常タウ代謝との関連を明らかにし、またタングルと同様にAD脳において特徴的な神経細胞内封入体形成とS6Kとの関連を世界で初めて明らかにした。細胞内の活性複合体については、セパラーゼの基質となり細胞周期制御に関与する可能性を国際誌に発表し、さらに細胞周期制御関連分子やタウ遺伝子転写関連分子とタングル形成との関連を世界で初めて明らかにし、国際学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
正常対照高齢者やAD患者の死後剖検脳組織、あるいは正常動物や関連遺伝子改変動物の脳組織を対象として、タウ蛋白代謝関連の重要機能分子と活性複合体との共存・結合状態や神経細胞内会合部位を生化学的および形態学的に検討すると共に、活性複合体に結合する機能分子について新たな知見を得ながら分析を進めつつある。つまり、タウ蛋白のリン酸化修飾に直接関与する蛋白リン酸化酵素群(PKN1、PKC、PKA、CK1 delta、Cdk2等)および蛋白脱リン酸化酵素群(PP1、PP2A、PP2B等)と、巨大プラットフォーム分子CG-NAPあるいはKendrinとが、複数分子の細胞内会合状態の調節に関与し、さらに同会合が特定の細胞内コンパートメントで厳密に制御されており、タウ蛋白を含む重要基質分子のリン酸化状態を調節すると共に細胞周期制御に影響することで重要な細胞機能に関係していることを確認しつつある。 蛋白リン酸化酵素の細胞内活性化カスケードのうち、PI3K下流にある細胞内情報伝達経路においてPI3K、PTEN、PDK1、PKC delta、p70 S6Kの変性神経細胞内局在を明らかにし、またこれら機能分子とタウ異常代謝との関連、あるいはS6Kについてアクチン細胞骨格病理との関連を発見し、KendrinについてはSeparaseの基質となり中心体複製の調節に関与することを世界で初めて明らかにした。さらに、タウ遺伝子発現調節関連分子や細胞周期制御の関連分子について解析を進め、タングル形成との関連を発見した。その後、活性複合体関連分子について改変遺伝子導入培養細胞を用いて、同分子とタウ代謝異常、細胞周期制御異常あるいは細胞変性-細胞死との関係を明らかにするため、改変遺伝子導入実験を行ったが現時点では不十分な結果となり、さらに実験方法を再考、改良しながら解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られた巨大分子量のプラットフォーム分子を中心とした活性複合体に関する新たな知見の解析を継続すると共に、タウ蛋白遺伝子をはじめ認知症関連遺伝子あるいはPKN1/PKN2遺伝子等の活性複合体関連分子に関する改変遺伝子導入培養細胞を対象として、タウ蛋白代謝に関連する複数の重要機能分子(PKN1・PKC・PKA・CK1 delta・Cdk2などの蛋白リン酸化酵素群や、PP1・PP2A・PP2Bなどの蛋白脱リン酸化酵素群)の機能状態あるいはそれらの活性複合体に対する結合・共存状態や神経細胞内会合部位、タウ分子の状態、細胞周期変化、細胞変性を生化学的および形態学的に分析する。具体的には、まず前述の培養細胞を対象としてCG-NAPおよびKendrinと活性複合体を構成する複数の機能分子の組成や量、またそれらのリン酸化状態など活性状態を、また脳組織・培養神経細胞を分画後CG-NAP・Kendrinおよび共に巨大活性複合体を構成する複数の機能分子の神経細胞内局在や会合・共局在部位を、免疫沈降・イムノブロット法等により生化学的に分析すると共に、高感度免疫組織化学法を用いた光学顕微鏡・共焦点レーザー顕微鏡・透過型電子顕微鏡による観察を介して形態学的に検討し、さらに細胞周期制御の異常等を解析する。 活性複合体の基幹構造となるプラットフォーム分子の遺伝子は巨大であり、導入方法について再考、改良を加えながら研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に、前述の活性複合体のうち巨大分子量を持つプラットフォーム分子あるいは同分子に結合する重要機能分子(PKN1・PKC・PKA・CK1 delta・Cdk2などの蛋白リン酸化酵素群や、PP1・PP2A・PP2Bなどの蛋白脱リン酸化酵素群)について、培養神経細胞へ改変遺伝子導入を行い、同培養細胞を対象とする生化学的・病理形態学的解析結果を学会あるいは誌上発表予定であった。しかし、改変遺伝子とくに巨大プラットフォーム分子に関する遺伝子導入の結果が不十分であったため導入培養細胞の解析に関する未使用額が生じた。 上記のような理由のため、培養神経細胞に導入する複数の改変遺伝子の調整および遺伝子導入後の培養細胞に対する生化学的・病理形態学的解析が必要である。とくに巨大プラットフォーム蛋白分子の培養細胞への遺伝子導入に関して平成25年度は不十分な結果となったため、同分子の全長遺伝子のみならず場合によっては上記の重要機能分子複数と結合する限定機能性蛋白フラグメントに相当する遺伝子を調整し、改変遺伝子導入を試みる必要がある。 このような導入遺伝子の調整、および複数の改変遺伝子導入後の培養神経細胞に対する生化学的・病理形態学的解析と、その結果の発表を次年度に行うこととし、未使用額は同経費に充当する。
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