研究課題/領域番号 |
23591288
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
豊田 一則 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (50275450)
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研究分担者 |
小久保 喜弘 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 医長 (20393217)
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キーワード | 脳血管障害 / 慢性腎臓病 / 頸動脈硬化 / rt-PA静注療法 / 脳腎連関 |
研究概要 |
(1) 一般住民における慢性腎臓病(CKD)と頸動脈硬化病変:都市型住民を対象とした循環器疫学研究である吹田研究に2002-2004年に登録された、一般住民3446例(35-93歳、女性1844例)を対象に、超音波で同定される頸動脈硬化所見と腎機能との関連を調べた。健診時血圧値をもとに患者を4群の血圧カテゴリーに分類し、頸動脈効果とCKD有無×血圧カテゴリーの交互作用を調べた。例えばCKD有×高血圧群はCKD無×至適血圧群に対して、狭窄度25%以上のプラーク病変がオッズ比3.16、95% CI 2.05-4.88で有意に多かった。 (2) 急性期脳卒中患者におけるCKDと脳卒中重症度・転帰:当施設での急性期脳出血患者連続例の急性腎障害(acute kidney injury: AKI)発症頻度と関連要因を調べた。AKIを236例中19例(8%)に認め,stage1は16例,stage 2は1例,stage 3は2例であった.AKI群は非AKI群と比べて入院時NIHSSが高い傾向があり(中央値20対13),退院時NIHSSが高値であった(15対7).死亡はAKI群5例,非AKI群16例.多変量解析で来院時eGFR低下(OR 1.04, 95%CI 1.00-1.09, 毎1ml/min),糖尿病(OR 7.77, 95%CI 1.85-33.41),6時間後の収縮期血圧75mmHg以上の降圧(OR 5.02, 95%CI 1.49-18.05)がAKIに独立して有意に関連した。 (3) rt-PA静注療法を受けた脳梗塞患者におけるCKDと治療効果:超急性期にrt-PA静注血栓溶解療法を受けた脳梗塞600例のうち4例が、維持血液透析患者であった。うち1例に、無症候性の異所性頭蓋内出血を認めた。3か月後の転帰は、完全自立1例、機能的自立2例、高度障害(車椅子)1例であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 一般住民における慢性腎臓病(CKD)と頸動脈硬化病変:当初計画のH24年度計画に記載した研究内容を、完遂できた。研究経過を、当施設の尾原医長が国際学会(International Stroke Conference)で発表し、英文原著として投稿中である。 (2) 急性期脳出血患者に焦点を当てて、AKI合併の実態を解明できた。脳出血救急治療としての急性降圧にも関連する臨床の重要な問題点を把握できた。当施設の鈴木医師が、国内学会(日本神経学会学術集会)で発表予定である。 (3) rt-PA静注療法を受けた脳梗塞患者におけるCKDと治療効果:当初計画のH24年度計画に記載した研究内容を、おおむね施行できた。研究成果を、当施設の永沼医師が英文原著として発表した(Eur Neurol)。 一連の研究成果をもとに、主任研究者の豊田が脳卒中医学における脳腎関連に関するコメントをNeurology誌に発表した(Neurology 2012)。同じく豊田が編集者となって、脳卒中医学における脳腎関連を主題とした英文教科書を作成し(”Brain, Stroke and Kidney”, Contribution to Nephrology vol 179, Karger社)、研究成果の海外への情報発信に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 一般住民における慢性腎臓病(CKD)と頸動脈硬化病変:吹田研究に登録された上記住民3446例を対象に、超音波検査諸値に及ぼすCKD病期と血圧カテゴリー、耐糖能カテゴリーとの交互作用の影響を調べる。 (2) CKDおよびAKIが脳梗塞患者、脳出血患者の臨床転帰に及ぼす影響と、それを改善するための改善の可能性を究明する。CKD患者の内科治療内容(脳保護薬、抗血栓薬など)と治療成績、治療副作用の関係も解明する。 (3) rt-PA静注療法を受けた脳梗塞患者におけるCKDと治療効果: CKD患者の脳梗塞における、他の急性期再開通療法(機械的再開通療法など)の治療効果と問題点を解明する。 H25年度には、国際学会(European Stroke Conference, 2013/5/29-31, ロンドン)における脳腎連関に関するシンポジウムの企画を任せられた。同シンポジウムに座長・演者として出席し、民族差も考慮した腎機能障害と脳血管障害の関連を発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
三つの研究のいずれも、既存のデータベースなどを利用して患者を抽出している。そのためデータベース作成への費用は不要であるが、データベース管理維持費が必要である。その他、患者血液検査・生理機能検査(超音波検査)などの一部費用を負担、ないしこれらの検査の遂行に関連する雑費を支払う。データ収集、データ解析に必要な統計ソフト、また研究協力者への謝金などを支払う。研究成果を国内外に積極的に発信するため、会議や学会への参加に必要な諸費、論文作成に関連する雑費などを支払う。 残額については、本研究最終年度に必要な解析ソフト等の物品費、成果発表にかかる旅費、印刷費にかなりの額が必要と見込まれたため、本年度の使用を押さえ、次年度に繰り越しました。
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