研究課題/領域番号 |
23591289
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
有廣 昇司 独立行政法人国立循環器病研究センター, 脳卒中集中治療科, 医師 (10599723)
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研究分担者 |
豊田 一則 独立行政法人国立循環器病研究センター, 脳血管内科部, 部長 (50275450)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脳血管障害 / 糖尿病 |
研究概要 |
糖尿病(DM)は脳梗塞発症の確立した危険因子であるが,急性期治療における具体的なその管理目標や治療戦略は明らかではない.本研究では,まず,脳梗塞急性期連続症例での血糖管理状況の実態を当科脳卒中データベース(国循データベース),入院診療録より調査し,予後や合併症との関連を明らかにする.その後,脳卒中ケアユニットに入院となった脳梗塞症例に対して統一した血糖管理スケールを用いることで,急性期の血糖管理指針を確立することを目的とする. 研究初年度にあたる本年度は,国循データベースを用いて後向き研究を開始した.2010年6月までの登録データを用いて,国内学会(京都,2011年7月)で発表を行った.急性期虚血性脳卒中の連続入院1207例(男性769例,平均72歳)中,DMは349例(29%)に合併していた.DM合併例は非合併例と比較して男性(74%対60%,)が多く,高血圧(85%対72%),高脂血症(62%対37%)の保有率が高く(いずれもp<0.001),心房細動は少なかった(25%対35%,p=0.001).入院時の神経重症度(NIHSS:中央値3対4),入院中の再発(7%対6%),死亡(4%対6%)に差はなかったが,退院時NIHSSが入院時より増悪した例は多く(14%対10%,p=0.024),3カ月後の転帰良好例(mRS≦1)は少なくなっており(48%対57%,p=0.029),DMを合併した虚血性脳卒中は合併症が多く,予後は不良であった.また, DMを合併した内頸動脈狭窄症に対し頸動脈内膜剥離術を行った41症例を検討し国内学会(大阪,2011年6月)で発表した.入院時血糖が144mg/dl以上の10例では残り31例と比較して術前のNIHSS(中央値1対0,p=0.002)やmRS(中央値1対0,p=0.030)が不良であり,周術期管理に悪影響を及ぼすことが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
後向き研究については,途中経過ながら2つの国内総会で報告することができており,残りの登録を急ぐことで当初の研究内容について達成が見込める状況である.一方,その後向き研究の結果をふまえ,脳梗塞急性期における共通の血糖管理スケールを策定した後,脳卒中ケアユニット(SCU)において前向き研究を開始する予定であった.しかし,本センターが2012年1月より電子カルテへの完全移行という診療システムの大きな転換を迎え,その移行準備・導入時期と重なり,病棟の運営体制やシステム稼働に対する安全面への懸念や配慮もあり,前向き研究の開始には至っていない.この共通の血糖管理スケールを設定する上での基礎的な資料となる,発症早期(3日以内)またはSCU在室期間内からの血糖管理状況(インスリン使用率など)とその予後(急性期増悪や再発,退院時や3ヶ月後の予後)については, 2008年1月から2010年12月までの3年分の後ろ向き調査を中間解析として次年(2012年)度の日本神経学会総会で発表予定としている.そこでの問題点をふまえて,共通の血糖管理スケールの導入を行い,前向きに登録調査を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
・当初の研究目標である2010年12月までの後向き研究のデータベースとして完成し,本年度の学会発表内容を元に論文作成を行う.・脳梗塞急性期の共通血糖管理スケールの導入ならびに前向き研究の準備として,後向き調査での問題点の集約を行っており,その結果をもとに院内倫理委員会への申請を行う.その後,診療体制の整備(各担当医や病棟コメディカルへの説明)を行い,SCU入院となる対象脳梗塞例に対して前向き研究を開始する.
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次年度の研究費の使用計画 |
後向き研究については,既存のデータベースを活用し患者抽出を行っており,そのためデータベースの新規作成費用は不要であるが,最終登録完了にはいたっておらず,その管理維持費が必要となる.また,データ収集,データ解析に必要な統計ソフトの購入,入力協力者への謝金などを支払う可能性がある.研究成果を国内外に積極的に発信するため,会議や学会への参加に必要な諸費,論文作成に関連する雑費などを支払う.前向き研究では急性期入院例の血糖管理状況の調査として,頻回の血糖評価が必要となるが,本研究申請時には一般診療内での血糖測定ならびに解析を想定していた.2010年に以下に記載する持続血糖モニター機器が保険収載されたため,同機器による詳細な解析も念頭に置いてより本研究を展開していきたい. (持続血糖モニター)血糖変動を確認する方法として血糖自己測定(Self Monitoring of Blood Glucose:SMBG)があり,本邦では主としてインスリン治療中の糖尿病患者において保険適応となっている.しかし,SMBGは一般的に1日1~4回施行であり,集中治療室で行われる周術期の血糖評価も3-4回程度である.これは測定時点一点での血糖値は把握できるが,その時点での血糖値が上昇傾向か下降傾向かどうかは不明である.米国では1990年代後半より持続血糖モニター(Continuous Glucose Monitoring : CGM)が実臨床で使用されており,本邦においてもインスリン管理中の糖尿病患者においては2010年4月より保険収載となった.今後,倫理委員会での承認作業を要するが,糖尿病を有する脳血管障害例における詳細な急性期血糖変動を評価する目的で導入を検討したい.血糖変動の評価ならびに期待される.
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